市井離馬の悪戯本舗


闇口憑依の主
└市井離馬(しせい・りま)――バグ
市井遊馬(病蜘蛛{ジグザグ)の姉
過失欠陥
この場合、代替可能{ジェイルオルタナティヴ)では成り得ない
基本常識人だがよく吹っ飛ぶ
和服をこよなく愛する超絶美人
《仲間》に入れる程の才を持ち、七愚人にも挙げられた
ER3システム1年半で中退(ほぼ完遂)
多分性悪&子供っぽい



「ねぇ憑依ちゃん。
私、何て言ったっけ?」
六十畳の広さの部屋に、彼女はいる。
畳が一段分上がっている上座に座るのは、わたくしの主である市井離馬様。
彼女は気だるげな目元を綻ばせてわたくしを見ている。わたくしは正座をし、主の前に鎮座する。
手持ち無沙汰に右手で己の艶やかな黒髪を弄び、左手でキセルを蒸かす主は、わたくしを一別して促しました。
「申し訳御座いません……主」
「ううんううん、謝って欲しいわけじゃないよ。そんなの誰だって出来るからね。
私が知りたいのは何故、遂行出来なかったのかだよ」
先ず一にすべきは主への謝罪。
わたくしの主はお心が広いが、主が手厳しければ、任務を全う出来なかった闇口がどうなるかは明白です。
ですが主は表情を、口元だけ緩めて微笑んだ。
誰もを魅了し惑わし狂おす笑みを湛えて。
「あの娘さえいなければ、わたくしは完璧に任務を全う出来ていたのです…」
若干……いいえ、かなりの言い訳になってしまいました。
けれど主は怒りません。
ただただ、人形の様に、笑っている。
「うん、そうだね。全く以てその通りだよ」
本心では無い事は直ぐに分かる。
主はわたくしを虐めるのが楽しくて愉しくて仕方が無いらしい。
「……主」
「どうでも良いけどね。
あはっ。憑依ちゃんを虐めるのは愉しーねぃ。
…萌太、其処に立ってないで入ったら?」
急に、言い出した主は、戸に向けてキセルを投げつけた。いつもの事、後片付けをするのはわたくし。
「……は?」
……気付きませんでした、萌太が其処にいる、と。
《死神》の萌太は、魂に関する事は聡い。加えての才能、気配を感知出来るのは最早、主のみ。
「……離馬さん、」
一応は《死神》。キセルには当たらなかった様。
主は些か残念そうに笑みを称える。ちょっとした抵抗か、間を置いて部屋に入る萌太。わたくしの隣りに同じく正座し、その瞳には強い警戒が浮かんでいる。
「うんうんうん、心配は無用だよ。萌太が役に立たなかったからって崩子を使うワケじゃ無いから。
……では今回の報告。先ずは憑依」
「はい。

――わたくしはいつも通りに。
途中までは上手くいっていたのですが、あの娘が…」
「うん、分かった。
その子は確かに《人類最強の請負人》と言ったのね?《哀川潤》と名乗ったのね?
寸分一字たりとも違わず?」
「…はい、わたくしが聞いた限りでは確かです」
「ふぅん?面白い事ね。
じゃあ……、萌太?」
名を呼ばた途端、萌太は身を堅くする。
「…僕が会ったのは、二十七歳のサラリーマン風のおじさんです。おじさんと言ったら否定されましたけどね」
「それじゃあ分からないわ。
もっと特徴無い?」
萌太は苦笑いをしながらも素直に答える。主が相手だからか、些か警戒心を解いていますし。
「…そういえば、二重に死相が出ていましたね。名前が二つ在るのでしょうか?」
うーんと唸りながら首を傾げる萌太の言葉に、主は口元を綻ばせた。
それはまるで傑作、という言葉が相応しく。
「……んふふっ、何て滑稽なんでしょう!何て愚鈍なんでしょう!!
これでやっと、あの《零崎》家に手を出せる!」
主は口元と言わず顔を綻ばせました。
主の喜びはわたくしの喜び。けれどどこか胸騒ぎがするのは、わたくしの気のせいでしょうか…。

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