久し振りにあいつにメールを送った。正直返事が来るとは思えなかった。けど、俺の予想に反して返事がきた。その返事に複雑な気持ちになりながら携帯を握りしめた。会いたい、そう思っているのか自分でさえ自分の気持ちがわからない。会う資格なんて俺にはない。自分でも最低なことをした自覚はある。けど、一度でいいから。あいつの顔が見たかった。元気でやってるのか、それだけ気がかりだった。今思えばあいつだってあの時かなりまいっていたはずなんだ。好きだった男が死んだんだから。
約束の場所に行くとそこにはすでにあいつがいた。あのころよりも随分と大人っぽくなってるあいつが。だけどその姿は昔以上に頼りなく、はかないものに見えた。あの馬鹿野郎のように突然、消えてしまいそうだと思った。目が合うとあいつはこっちに体を向ける。俺はゆっくりと近づいて目の前で止まりぎこちのないあいさつをした。
「久し振りだな、歩惟」
「うん。元気そうだね倉持」
歩惟。懐かしいその名前は自分の耳にしっかりとなじみ落ち着かせてくれる。まぁ、そんな思いはきっと一方的なものだろうけど。適当な居酒屋に入って何食う。と聞くとお酒以外なら何でも。と言われ少しだけ驚いた。歩惟は結構お酒が好きだった。俺以上によく飲んでるやつだったはずだ。なのに飲まないって。そういえばずいぶんと痩せた気がする。痩せたというよりは、なんだかもっと違う、何か。細すぎる。
「別に病気とかじゃないよ。子育てしてるからそういうの控えてるの」
「こ、子育て?!」
思わぬ言葉に驚いて大きな声を出してしまう。顔をしかめてうるさいと言われれば謝るしかない。いつの間に。ときくと結構前からだよ。と言って歩惟は俺の好みのものと自分の好きなものを適当に注文する。今で6歳。もう小学生よ。6歳、といえばだいたい俺と別れてすぐにできた子供ってことになる。父親って、俺の知ってるやつか?・・・あの子たちに父親はいないの。は?父親はいない。存在しない。どういう意味だと聞こうとすると料理が来て一度話を中断することになる。そのあと何度俺が聞こうとしてもあいつは何も話そうとしない。いない。それだけしか言わなかった。
「歩惟どういうことかちゃんと説明しろよ」
「どうって、いないからいないんだよ。」
「いないわけねぇだろ!だったら、その子供はどこのどいつの子供かわからないとかいうのかよ?」
「父親はわかってる。間違うことなくあいつよ」
「だったらなんでいないなんて」
「その人は子供のことは一切知らない」
ぴしゃりと言い切られた言葉に目を見開く。知らない、って。その人には本命の彼女がいて、そっちに行っちゃったから。勝手に私が生んだだけ。子供つくっといて本命なんて場合じゃねぇだろ!なんだよその男?!そんなくそみたいな男との子供お前は産んだのかよ?!俺がそういった瞬間ほほが熱くなる。一瞬何が起きたのか理解できなかった。
「私のことは何といってもいいけど、子供とあの人のことを馬鹿にするなら絶対許さないから」
強くにらまれて硬直していると、歩惟は財布から金を抜き、自分の分のお金を置いて店を出ていった。あんな顔、初めて見た。じくじくと胸が痛む。ああ、くそ。何やってんだ俺。俺にそんなこと言う資格なんかねぇのに。なんで。何やってんだよ。クソ。子供作った野郎や、その子供なんかよりもはるかに俺のほうがクソヤローだ。結婚の約束を突然破棄した婚約者なんかに、何を言う権利があったんだ
錆びた騎士もどき