うおぇ。ごほごほ。トイレと向き合って必死に耐える。苦しくて涙がこぼれる。キラリと光る左手の指輪が眩しすぎて涙を流した。苦しい。つらい。助けて。そんなことを言える人はおらず、ぎりぎりの生活。このせいでまともに働けなくなったし、ご飯もなかなか食べれない。でも食べなければならない。お腹の大事な子のためにも。
すきま風のあるこの部屋の冬はキツかった。寒すぎるけど、暖房器具を使う余裕は今のわたしにはなくて、布団をたくさん着てなんとか耐えた。下半身だけは冷やさないように湯タンポなんかを使って必死に乗り越えた。
真夏の暑いときはショッピングモールなんかに出て涼む。夜は寝苦しいけど耐えれないことはなかった。保冷剤やアイスマクラ。濡れタオル。何でも使った。いつのまにか余裕のできた体に少し安心した。
お腹には一人じゃなくて二人いる。お医者さんにそう言われたとき泣いてしまうくらい嬉しかった。こんなどうしようもない母親のもとに2つものかわいい命が降りてきた。長女の優夏(ゆうか)と長男の洋亮(ようすけ)。絶対に、なにがなんでもこの子達を守るときめた。
子供の産声が響く。ああ。よかった。あまりに感動して心臓が止まりかけた。それから数日間わたしは病院で検査入院させられた。子供たちは無事に生まれ、我が家が賑やかになる。家でできる仕事をとりあえず探してお金をとにかく稼いで夜泣きに起こされ、五月蝿いと怒鳴り込まれたりもした。何度も頭を下げて、母乳をあげて、働いて、毎日くたくたになるまで動いて正直しんどい。けどあまりに充実してるから苦しいとは思わなかった。
子供が幼稚園に通いだした。そんなある日二人になんでうちにはママしかいないの?と聞かれた。ごめん。としかあやまれなくて。子供たちに何度も抱き締めながら謝った。この子たちにはいざというとき頼れる人がいない。わたし以外いないのだ。そう思ったら少し楽になっていた生活を厳しくしていくべきだと考え仕事を増やした。
子供たちがいる時間は家にいて、寝てるときや幼稚園に行ってるときなんかに働いた。昼前から夕方まで。夜中から朝方まで。寝る間も惜しんで働いた。週一の休みにひたすら寝てあとはほとんど働いた。せめてもしものときにお金だけでも残してあげたかった。
自分がどれだけ一人でやっていっても子供にはつらい思いばかりさせてきた。お金のない人間とはこうもみじめなのかと何度も思った。ぼろぼろの服を買い替えてあげれない。運動靴以外の靴をあげれない。やりたがっている野球の道具を一式そろえてあげることができない。我慢ばかりさせることがつらくて何度も泣きそうになった。でも泣く暇なんてないと自分を奮い立たせ、一円でも多くお金を稼ぐ。

そんな生活が慣れてきた頃、買い換えた携帯に連絡がきた。あの人から。飯を食いにいかないか。そんなお誘いだ。ここで断ったら怪しまれるかもしれない。そう思って了承し、週一の休みの日久々に会うことになった。あの日から一度も会うことのなかった元恋人に。

子供たちを早めに寝かせて、待ち合わせの場所にいく。

「久し振りだな、歩惟」
「うん。元気そうだね倉持」

懐かしい鼓動とともに

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