「悪い、あの話なしにしてほしい」
「え・・・・・」
「今はどうしても、あいつを支えたいんだ」


そういって深く頭を下げる君にわたしが何を言えようか。何れだけすがろうと、君は迷っても結局あの子のとこに行くくせに。その言い方は、こんなのは、ずるいよ。そっと自分のお腹に手を当ててゆっくりと息をした。

「わかった。」

震えないように、泣かないように。精一杯強がってみよう。流石に笑えないけど、泣くのは我慢できる。ポケットから鍵を出してそっと彼の手を握りその手のなかにそれをしまう。さよなら。元気で。その精一杯の強がりな言葉を最後に背を向ける。振り返りはしない。振りかえったらぐちゃぐちゃな顔に気づかれてしまうから。ずっと先の約束も消えてしまったね。一人でそんなことを呟いた。


安いぼろアパート。泥棒に狙われやすそうなとこだけど、ここがわたしの新しい家で、新しい帰るべき場所。親も、友達も、誰にもなにも言わずにここを見つけて引っ越した。携帯も解約して、新しいのを買い直した。番号とかは変えてないけど、今までの思い出全部消した。自分からかけられる番号など一つもない。固定電話はない。独り暮らしならよくあることだ。
部屋の中にあるのは前の部屋から持ってきた冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品とたくさんの段ボール箱。少しずつ整理していって早くこの部屋を快適過ごせるようににさせなければ。すきま風のはいる小さなこの部屋。それでもこれがわたしの精一杯。誰になんと言われようとも、ここがわたしの城なのだ。それにわたしには見た目がどうとか関係ない。愛おしい人がいればどこだっていいんだ。
「さて、とりあえず掃除しますか!」
散らかった部屋をみてそう声を張ってみたら思いの他響いて焦った。かなり壁薄いし、隣に迷惑かけないようにしなきゃ。とはいってもここの住人わたしをふくめごく少数で左右は空き部屋なのだけれど。
ここの引っ越してきた目的は一つ!自分でとこまでやれるかとことん試す!今ならきっとどんなことでも一人で乗り越えられる。そう思うからこうやって一人できたんだ。誰にも言わず。

「全部ここから再スタート!もう昔なんか全部リセットなんだから!」
友達も、親も、先輩も、後輩も、恋人も。全部棄ててきた。ここからは違うわたしの人生。


だからさ、あんたももう私のことなんて忘れて自由になってね。倉持

約束もなにもかも棄ててきた

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -