「母さん、今日ね、お父さんにあったんだ」
突然言われた言葉に驚いて驚いて洗っていたお皿を思わず落としてしまう。プラスチックのお皿だったので特に割れることもなかったのだがそれでも驚きが隠せなかった。え?と聞き返すとこうえんでね、まさやくんと一緒にお父さんが来てたんだ。と笑顔で言われる。なんで、お父さんなんて教えたことない。写真も何も見たことない。なのになんでお父さんだなんて・・・・。あのね。洋亮そっくりだったの。だからすぐわかったの。きっと迎えに来てくれるよ。だから母さんもう寂しくないよ。そう無邪気な笑顔を向けられても私はちゃんと笑えなかった。だって、そんな日は一生来ないのだから。私はあの人にもう捨てられているのだから。
仕事から帰ってきた亮さんに詳しいことを聞くとたまたま偶然会ったことを教えてもらった。そのときなぜか一目でそれが自分の父だと理解したことも、声をかけていたことも包み隠さず教えてもらった。洋亮と、あの人は似てる。けど、そんなにすぐにわかるものなの?
「優夏はずっと言わなかったけどお前が父親がいなくて寂しい思いしてるって心配してた」
「そんなこと・・・・」
「御幸にも相談してた。」
「え?!みゆき?!」
「あ、前に俺幽霊の御幸見た。ちょうど二人が御幸と話してたんだよ」
とりあえず倉持からまた連絡来ると思うけど、その時意地はって突っぱねたりしないでちゃんと向き合ってみなよ。と言われてでも!と反対の意思を示そうとすると亮さんは困った顔で笑い頭をやさしくなでた。お前は、もういいんだよ。背負わなくて。御幸のことも倉持のことも、子供たちのことも、全部一人で抱える必要はないんだ。ちゃんと思ってることは誰かに伝えなきゃ、抱えきれなくなるだろ。それは、わかってます。でも私は・・・・そんなこと許されません。どれだけ思ってることがあっても、どこに本音があったとしても、言ってはダメで、隠し通さないといけない。だって私がしたのはそういうことだから。どれだけホントがばれても、ほんとは言わない。
「倉持にも御幸のこと、教えた。あの日なんか若干見えたような気がしたし」
「亮さん、でも私はもうやり直す気はないんです」
「なんで?」
「・・・どれだけ幸せになったとしてもきっと一生罪悪感を持ったままになる。御幸のこと」
「あれは別にお前のせいじゃないだろ」
「わかってます。でも、それとこれは別なんです。あの日の後悔、一度だって忘れたことない」
届かなかった。この手が。私だけが、あの場にいたのに。そんな気持ち、一生消せないよ。あれだけは、忘れられない、忘れちゃいけないものだから。こんな罪悪感を一生一緒に倉持に背負わせたくない。私だけでいいんだ。あの日を、後悔するのは。みんな前に進んでほしい。柚希さんにも、二人の子供にも。だからあの指輪を渡しに行ったのだから。そりゃ、突然再婚しますって言われたらいやだと思うけど、でもそんなことを冗談でも言えるくらい元気になってほしい。御幸の愛した人だから。御幸の一番願ってることだから。
「倉持はさ、ずっと後悔してるよ。お前を一人にしたこと。子供がいるって知ってもっと後悔したと思う」
あいつは、いっぱいいっぱいだったんだ。自分でも気づかないくらい無理してたんだと思う。あの状態に持って行くのがやっと。このままじゃダメだってわかってても、それ以上動けなかったんだ。怖かったんだよあいつも、突然消えた親友みたいにまた誰かが消えることが。だから柚希のところにいったくせに、お前のこともずっと気にしてた。迷って、やっと落ち着いたころに連絡とって、心配になって俺に連絡してきて、お前のところに俺が行くことになった。突然お前にやっと何とか安定した環境を間違ってると一言で壊されそうになって、怖くなってあの日お前を追い出した。それもすぐに後悔して今は柚希と一緒に前に向けるように頑張ってる。やっと歩みだしたんだよあいつらも、俺も。あの日から。御幸が死んだ、あの日から。お前があいつらに間違ってるって言葉をぶつけてくれたからだ。
「お前だけを置いていくなんてできないよ。お前だけあの日に置き去りになんてしない」
「亮さん・・・・」
「大丈夫、俺たちが付いてる。一緒に前を向かないと。それこそ御幸に合わせる顔がないよ」
「御幸はずっと、私を支えてくれてたんです。一人になったあの日からずっと」
「うん、だからさ・・・。もうあいつにこれ以上心配かけないように前をむこ」
そっと触れられた頭から全身にぬくもりがすぅっと通っていくような感覚がしてまた泣きたくなった。絶対に、子供たちが大きくなって巣立つまでは恋なんてしないでおこうって決めてた。子供を産んだ責任だと、そう思てたから。だからもう一度やり直すことはできないけど、あの日の本当の気持ちをもし倉持から訪ねてくれたら伝えてもいいかな?いかないでって、その一言が言えなかったって。

口から出た空気音

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