あいつのところに行く前に俺にはやるべきことがある。あの家に戻って柚希を外に連れ出す。俺だけ一人前に進んだって意味がない。あいつも一緒に、あそこから踏み出さなきゃ意味がないんだ。家に戻って柚希!と大きな声で呼んでみるが返事はない。探し回ると御幸の私物ばかりが置いてある私室のソファーで眠っていた。あの時からそう。こいつはいつもここを逃げ場にしてた。ここから一歩も出ようとはしなかった。いまだに御幸の死を受け入れてないのだ。心のどこかで希望を捨てきれないんだ。
でも寝てるほうがいい。連れ出すには。正也もチャイルドイートに座らせ、後部座席に乗せて、助手席に柚希を寝かせた。目的地は毎年俺と正也の二人でしか行かなかった場所。そう。御幸の墓だ。葬式以来、一度もいっていない。柚希は。酷なことをしているのかもしれない。けど、もう目をそらすわけにはいかないんだ。俺たちは。たくさんのものを、踏みにじってきたんだから。あいつだってきっと、こんな風になることを望んでなかったはずだ。ああ、そうだ。なんで俺は今まで気づけなかったんだ。あいつは、御幸はいつだって柚希の笑顔が好きだっていってた。眩しいバカみたいな表情が好きだっていってたんだ。それはこんな風に後ろめたいものを抱えて生きてできる表情じゃない。こんな暗いところにいてできる表情じゃない。
目的地につくと正也を先におろして、眠ったままの柚希を抱き上げて御幸の墓の前に行く。少し散らかっている葉っぱは手で払ってそのまま罰当たりだとは思ったが墓石に柚希の背を預け、正也と一緒にバケツに水を汲みに行った。こんなことで現実を見れるかはわからない。けど、忘れれないまま、受け入れれないままじゃどうしようもない。
墓の前に戻ろうとするとすでに柚希は起きていてそしてそっと墓をなでて泣きだした。わんわん大きな声を上げて何度も何度も御幸の名前を呼ぶ。好きで好きで、大好きで仕方がない。そんな人を失ったんだ。失恋じゃなくて、もう二度と会うことができないんだ。なぁ、お前はどういう気持ちで御幸の死を受け止めた?どんな気持ちであれから時間を過ごしてきたんだ?俺は今まで必死だったから、あいつが死んだとかあんまり考えることなかったんだ。とにかく柚希と正也を守ることで精一杯で、ほかのことは見れてなかったんだ。
「洋くん泣いてる・・・・」
「へ?」
「どっかいたい?」
正也に言われて初めて自分がないてることに気づいた。そういえば、あいつが死んでから一度だって泣いたりしなかった。あいつの死を悲しむことも、なかった。受け入れてなかったのは俺も一緒だったのかもしれない。ああ、苦しい。高校のころから自己中心的で、周りも見れない・・・・どうしようもない悪友だったけど。俺にとってはやっぱずっとあの苦しい時間を過ごしてきたかえのない親友だったんだ。なぁ、なんで死んじまったんだよ。お前と戦うの楽しかったんだ。お前と話すの、嫌いじゃなかったんだ。お前と柚希と正也が並ぶところ見たかったんだ。俺らと、お前ら家族で一緒に出掛けたりとか、そういうのしたかった。
結局正也も俺らにつられて大泣きして、三人で泣いてそのあとたまたま同じように墓参りに来ていた増子さんと純さんに見つかって驚かれて、ワイワイ騒いで最後は笑って帰る。帰り道、柚希が珍しく車を運転すると言いだして俺は助手席で見守る形になる。
「あのさ」
「ん?」
「わたし強くなるよ。御幸の奥さんなのに、違う人に逃げて、ずるばっかりしてるのやめる」
「柚希・・・・」
「いつか御幸がくれたあの指輪を、堂々とつけれるようになるから。」
今まで怖くてこれなくて・・・・。でも起きたときに驚いたけどやっと現実を見た気がして。あの日、見ないふりをした場所が、あの人がそこにいてやっと受け入れれた。ありがとう。
「だからさ、倉持は歩惟ちゃんのところに行ってよ。歩惟ちゃんきっと今もずっと、待ってると思うから」
「待ってはねぇよ。こんな俺のこと」
「ううん、待ってるよ。だって・・・・まぁ、とにかく今度の休み話しておいでよ」
「なんだそれ。」
でもまぁ、そうだな。柚希を言い訳に行かないのはやめるって決めたし。それにできることなら少しでも早く、もう一度あいつといたいから。

その隣はあいていますか?

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