帰り道、車のなかで先輩はお前は隠し事が多いな。と困ったかおをしていた。ほんとはあんなこと、言うつもりなかった。さっさと帰ろうと思ってた。けど、あまり柚希さんが情けない顔してるから言わずにはいられなかった。ほんとにそれじゃ御幸が安心できないよ。いつまでも倉持も、救われない。
もっと言いたいことあったんじゃないの。バレてました?すごく加減していったんですけどね。まぁ、お前からしたらそう思って当たり前だよ。俺らが甘やかしすぎたかな。あいつのこと思うならもういい加減たち直させるべきだったって今なら思う。わたしは一度も柚希さんのこと考えたことないですよ。ただあまりにそれじゃ、倉持も御幸も報われないし、なにより私が報われないじゃないですか。好きな人を二人も取られちゃったんですよ。ほんと、ムカつきますよね。目頭が暑くなるくらいムカつきますよね。そっか。はい。ほんと、報われないね。お前は。あはは。これでも、高校のとき御幸の一番近くにいたのわたしだったのにな。結構いけるって思ってたのにな・・・。倉持も結婚の約束までしたのに、情けないですよね。お前は情けなくなんかないよ。え〜、先輩変な優しさ怖いですよ。違うよ。ただバカなだけだよ。お前は。

「御幸のことも、倉持のこともいい子ぶって人に譲ってお前に何の利益があるのさ」
「そうですね。でも、譲ったことで救われた人がいるならいいじゃないですか」
「それで自分と、自分の家族を苦しめることになっても?」
「意地悪なこと言わないでください。正しく言えば私にはそれ以外の選択肢を選ぶ勇気がなかっただけなんですから」

そうだ。あの時も、高校の時も怖かった。自分のすることで誰かを傷つけるのを、傷つくのも。これは人の性格なのだから仕方がないじゃないか。あきらめたようにため息をつくとそれでも俺はお前の味方になるって言っただろ。といって先輩は私の頭を片手だ撫でる。

「先輩は彼女とかいないんですか」
「いないね。それと、先輩じゃなくて亮介さんか亮さん」

今更だと思うのに先輩はひかないので亮さんと呼ぶことにした。お前もこのくらい押しが強くなくちゃ。なんて言われても困るばかりだ。聞かせてよ。御幸のこと。お前がだまってること。信号が赤になったからか、それとも真剣だからか、しっかりと私のほうを見てはっきりとそう要求する。正直あの時のことを話すのは今では苦しいばかりだ。あの瞬間、血の匂いがまだ忘れられない。ぶり返ってきそうだ。赤すべてがあの時の流れ出ていくものに見えてくる。

「御幸のことを好きだったのはきっと知ってますよね」
「否定はしないでおこうかな」
「やっぱり」

倉持との婚約指輪を買いに、あの日ジュエリーショップにいった。そしたらたまたま御幸と出会ってお互い驚いてお互いのこと茶化しあってお店を出た。私はその指輪を渡す前にどうしても御幸とのことを終わらせたくて急いでもどってあの背中を追いかけた。そしたら私より早く隣を通り過ぎていくものがあった。大きなもの。それがまっすぐ横断歩道を渡ってる御幸に直進してた。慌てて走って、叫んで、手を伸ばして、次の瞬間御幸は跳ね飛ばされた。頭から血を流して必死に止血しても血はとまらなくて、救急車もなかなか来なくて必死に声をかけてた。御幸は自分の終わりをすぐに察してね、あの指輪を届けてほしいってお願いしてきたんですよ。あれを渡して、喜ぶ瞬間、見たがってたんですよ。みたいなら生きろっていったのにあいつ・・・・・
そこまで話て嗚呼が漏れる。亮さんは話をせかすことも止めることもなくそのまま黙って私の話に耳を傾けてくれていた。だから私も必死にあの時のことを伝えたかった。知ってほしかった。あの時、何があったのか。どんな気持ちだったのか。誰かに話しておきたかった。
警察に事情を聞かれてとりあえず一度解放されて病院にいったら御幸は死んでて、みんなはあの子の周り集まってた。それは倉持も例外じゃない。誰もこっちを見てくれなかった。愛した人を失ったのはつらいってわかるよ。でもね、でもっ・・・・

「倉持まで、私からとらないでって・・・・そう、思っちゃった」
「うん」
「ほかのみんな全部あげるから、その人だけは取らないでって願ったのにっ」

約束をなかったことにしてほしい。そう倉持本人の口から言われたとき必死に言葉だけ繕った。でも倉持は了承を得られた安心感から私がぎこちないのも気づかなくて、本当に一人ぼっちになった。ううん、三人ボッチになったの。あんな事故がなかったら私あの日倉持に指輪と一緒に渡そうと思ってたんだ。婦人科でもらった赤ちゃんの写真を。それでほんとに家族になろうって思ってたんだ。やっと、幸せになれるって思ってた・・・・
そのとき思った。私はずっと幸せになれない人間なんだろうって。だからその分、子供たちだけでも幸せになってほしいって願った。それが私の第二の人生の原点だった。

一人ぼっちでもヒーローは勝てるって信じた

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