目の前で初恋の男が死んだというのはどんな気分だろうか。俺にはどう頑張っても理解してやれることはできない。そんな経験なんてないからだ。だけどもし、俺の目の前で誰かが死んだと仮定するだけでかなりきついと思った。それをあいつはずっと一人で背負ってきた。俺は何も知らず、ただあいつを・・・・。結婚のこともそうだ。自分で言い出したくせに、勝手に破断させて、柚希のことを支えたいなんてあいつには関係ないことなのに。あいつはこんな俺と真剣に向き合おうとしてくれてたのに俺は。
御幸が死んだとき、俺が探したのは柚希だ。葬式の時も。それからも。そばにいてやろうとしたのは柚希だ。目の前で親友であり、片思いをしていた相手がしんだとき、あいつの傍には誰もいなかった。警察に事情聴取とかもされてただろうに。だれもいなかったんだ。葬式のとき、きっとあいつは責任を感じてただろう。そばにいて、最後を自分が看取ったのだから。その背中を支えてやるやつは誰もいなかった。俺が別れを告げたとき、あいつはほんとの意味で一人ぼっちになった。誰もいなくなった。その寂しさで男を求めたことをどうして俺がとがめれたんだろうか。それでできた子供を罵倒することができたのだろうか。たった一人で悪阻や陣痛に耐え、子供をここまで育て上げたあいつを、なんで責めることができる。あいつを突き放したのも、一人にしたのも俺だったのに。
高校の時、俺が柚希の背中を押さなければ正直御幸と付き合ていたのはあいつだったかもしれなかったのに。おれは自分の好きな奴の笑う姿が見たいからと、親友の気持ちを踏みにじった。その罪悪感で支えようとした高校生の俺の決意は、あっさりと破れ。柚希に寄り添った最低野郎だ。久々にあの日、俺が連絡を入れたとき、あいつは本当にどんな気持ちだっただろうか。

「柚希大丈夫か・・・?」
「うん。大丈夫。」

歩惟の背中に何かを感じて慌てて追いかけていったが結局おいつくことはなく、部屋に戻ってきて柚希に声をかけたら、柚希ははかなげに微笑んだ。受け取った指輪を見つめ、最低なことをしちゃってたんだね。とつぶやいた。最低なこと?歩惟さんから倉持のこと取った。御幸がいるくせに、よくばってあの人一人にしてしまったんだね、わたし。違う、それは俺が勝手に。歩惟さんの子供って倉持の子供じゃないかな。だってそうじゃないと親にも頼らずに一人で頑張ってることの説明がつかない。そうじゃないですか亮さん。柚希がそう聞くとさぁね。と亮さんは返す。否定しないってことは。まさか。俺は目を見開いた。亮さんは大きくため息をつくと子供の写真あるけど見る?と言ってくれたので二人そろってその写真をみる。その写真に写っていたのは俺にそっくりなガキと、あいつにそっくりな女の子。双子だよ。顔はあんまり似てないけど。洋亮と優夏っていうんだ。由来なんだと思う?と聞かれわかりません。と正直に答える。すると亮さんはお前ほんとにダメダメだな。といって大きくため息をついた

「洋亮は俺とお前のこと。」
「俺と、亮さん?」
「最強の二遊間。あいつがお前を見てて一番かっこいいと思った瞬間だって。その名前みたいにかっこいい男の子に育てほしいって願いが込められてるんだよ」

優夏はやさしいなつとかいて優夏。やさしい子に育つように、そしてあの夏のように何かに一途に燃え上がるようなものを見つけれますように。そういう願い。俺さ、お前に聞いて初めてあいつのところに行ったときあいつのことを責めたんだ。そしたら倒れちゃってさ、限界ぎりぎりの生活をしてたんだから無理もないんだけど。医者も、これ以上無理をすれば先がわからないっていうくらい。それでもあいつは子供のためなら何でもするだろうからって今は俺の家で暮らさせてる。けどその前に、病室で会ったんだ。俺。

「御幸の、幽霊に」
「なっ」
「詳しくは知らないけどあいつはちょこちょこ子供たちのいるときにも姿を見せてたみたいだよ。子供たちにはあいつの声が聞こえてた。俺には聞こえなかったのに」

あいつはずっと、気づかない俺らの代わりに見守っててくれてたんだ。歩惟のこと。ぼろぼろになった歩惟を何もできないけどずっとそばで見てくれてたんだ。俺らが御幸と柚希の子供が、正也(まさや)が生まれてきてみんなで愛していたころ、洋亮と優夏の傍にいたのはいつもギリギリまで働いてる母とたまにすがたがみえる名前の知らない幽霊だけだった。それでもあいつらは幸せだといった。自分たちには母親がいることに、愛されてることに、一緒にいられることに。でももうこれ以上母親に無理をしてほしくないって願ってた。だからさ、俺がお前の代わりになりたいと思った。歩惟の夫にはなれないけど、支えることならできる。洋亮と優夏の本当の父にはなれないけど、父親のような存在にはなれる。

「倉持、お前のしたことは間違いじゃない。あの時、お前が柚希に寄り添ってやらなかったらきっと柚希はここにいなかった。それは誰もがわかってる」

けどね。それでもあの子たちには必要だったはずなんだ。父親って存在が。歩惟には必要なんだ。支えてやる人間が。歩惟も子供たちも俺がこれからは守るし、支えていく。だからお前は必要ない。責任を感じる必要もない。だから、歩惟の前に中途半端な気持ちで来るな。同情なんてするな。お前が同情なんてしていいわけないんだ。柚希、お前もだ。お前は悪気がなかったとはいえ子供たちから父親を奪ったんだ。倉持の気持ちをまったく知らなかったわけじゃないんだろ?自力で立てないからすがったのはお前の弱さだ。子供だってお金だって、なんだって女一人でもやっていける。そう歩惟が証明してる。それでもお前はそうはしなかった。それはお前の弱さだ。それが悪いわけじゃない。むしろ仕方のないことだと俺は思うよ。でも罪のない子供たちから父親を奪った事実は変わらない。

「お前は今後自分がどうするべきなのか自分でちゃんと考えろ。このまま倉持にすがっていくならいくでいい。その代わりその時は二度と歩惟の前に現れるな。もし自分立ち上がってあるいていこうっていうなら、俺も協力するから」

そういうと先輩は立ち上がりお邪魔したね。といって家を出ていく。しばらくの間俺は動けず、目の前に置かれた幼い子供の写真を縛り付けられたかのように見つめていた。無邪気な笑みを浮かべるその子たちは、俺が大事にしたいと思ったあいつとの間にできた子供だった。


僕と君の間にふたつの軌跡

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -