子供たちに新しい服を買ってもらった。小学生ならだれしもが持っているランドセルも買ってもらった。優夏はかわいらしい髪留めを、洋亮は野球をするための道具を、私の与えられなかったものが次々に二人に与えられた。先輩は二人だけじゃなく私にも新しい服とかいろいろなものを買い込む。いらないといっても勝手に買い込んで支払ってしまうのだ。今までの償いだから。別に先輩が悪いわけでもないけど、そういわれれば何を言っていいかわからなくなって結局甘えてしまう。先輩はやっぱり変わらずやさしい人だった。

「お前のことは一応誰にも言うつもりはない。お前から言い出したくなれば止めないけど、俺から誰かに言うつもりはない。たとえ倉持でも」
「ありがとう、ございます」
「その代わりこの同居生活続けて。ゆっくり体を直して、しっかり自立できるようになるまで」

そういうと先輩は公園で楽しそうにキャッチボールをしている子供たちのところに行って野球を教えてくれた。洋亮は名前の由来の二人のような野球選手になるのかな。懐かしいあのころを思い出してなんだかくすぐったい気持ちになる。優夏はマネージャーにでもなって、二人で一緒にあの場所を目指してほしいな。勝手な我儘だけど、さ。何もなくただ学生時代を通り過ぎるんじゃなくて、野球じゃなくても何でもいいから何かを追い求める学生でいてほしい。それがどれだけ楽しい思い出となるか、私は知っているから。
子供たちが寝た後、私はずっと気になっていたことを先輩に聞くことにした。柚希さんは今どうしてますか。そんなことを聞かれるとは思っていなかったらしく先輩は一瞬驚いていたけどすぐに無事に子供も生まれて楽しくやってるよ。もう大丈夫だ。と教えてくれた。そっか、生まれたんだ。ということはきっと同級生になるんだろうな、うちのこと。御幸、御幸、生まれたって。あんたの子供、生まれたってよ。よかった、ほんとによかった。あんたが後悔すること一つなくなったね。

「今度、御幸のことでまた話し合いあるから帰り遅くなる。明日から俺仕事行くけど、お前は無理しないこと。仕事探しなんかしてたら速攻で純とかも呼ぶからね」
「伊佐敷先輩ですか。それはうるさそうですね」
「そうだよ。あんなにうるさい奴、呼んじゃうから。いやだったらいい子にしてなよ。」

次の日、少し早起きしてお弁当と朝ごはんを用意すれば先輩には呆れられた顔をした。でもこのくらいはさせてほしいというとつらくなればすぐ休むことを約束に何とか許しを得た。子供たちと先輩3人を玄関まで見送って家に一人になる。そうするとうっすらとあいつの影が見えた。来てくれたんだ。そういうと御幸は困った顔をして私の手を引いてソファーに座らせた。

「ねぇ、御幸。そろそろあれ、渡してもいいんじゃないかな?」

鍵のついた宝箱をみていうと御幸は首を横に振る。渡してほしい。そういわれた指輪は今もまだここにあった。あの日、渡そうと思っていた。御幸の葬式の日。でも、声をかけようとした瞬間彼女は泣き崩れていて、いろんな人に囲まれていた。その姿を遠くから見つめていたらとん。と誰かが肩に手をおい手ような感覚がした。振り返っても誰もいない。けど耳元で聞こえた。それ、今渡さないで。聞きなれた声が聞こえたんだ。聞き間違いかもしれない。私の妄想かもしれない。けど、御幸がここにいたら。あの姿を見たらどう思うだろうか。そう考えたら渡せなかった。だって今渡せば彼女はそれにすがり、命すら絶ってしまいそうだったから。そんなこと、彼は望まない。
でももう大丈夫だっていってた。先輩が。だったらもう渡してもいいんじゃないかな。いい加減彼女に御幸の最後の残したものをわたしても。俺はあいつを自分に縛り付けたくないんだ。御幸はそう悲しそうな顔をしていう。そんなこと言ったって無理だよ。あの子は御幸が好きだし、御幸はあの子が好きだ。そしてそのあかしとも言える子供ができてる。もう逃げるのはやめよう。お前は渡しに行ったらどうなるか分かってるのか。なんで今更って言われる。責められるのはお前だ。そんなこと今更構わないよ。勝手に姿消して、子供産んでるって時点でもう二度とあの人と仲を修復なんてできないんだから。でも御幸は、死んでしまってるけどまだ間に合うよ。一生忘れなくたっていいじゃん!それはあの子がそう望んだから、その結果ならいいじゃんか!あの子が、自分で選んだなら・・・・。それは自分の責任だ。これがここにずっとあるから御幸はいつまでも成仏できないんだよ?いつまでも私のところにいても、だめだよ。もう私は大丈夫。だから、だからもう、ちゃんと伝えようよ。
すぅっと御幸は姿を消す。悪い、頼む。そういって。やっとお互いに覚悟が決まったね。御幸はあの子を最後まで縛る覚悟を。私は完全に嫌われる覚悟を。ありがとう御幸。御幸のおかげでここまで来れた。ほんとは一生いうつもりのなかったこともあの人に言うよ。それで全部リセット。ほんとのリセットだ。私も、あの子も、あの人も。


壊れた時計

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -