昔の僕は死んでしまった
小さい頃、小絵は突然引っ越してきた。俺にしょっちゅう泣かされるくせになぜか傍を離れなくて、次第に自分以外がいじめるのが許せなくなって守るようになった。小絵は国語が好き。社会が一番苦手。生物は分野によって。解剖とかになると気絶してしまうほどだめだ。自然が好き。花とかあいつの家はいっぱいあった。歌うのが好き。子供のころから変な歌を作っては歌っていた。めちゃくちゃな歌詞にめちゃくちゃな曲。それでもおもちゃのピアノやギターであいつは楽しそうにしていた。人見知りが激しい。けど気を許すと結構人騒がせなうるさい奴。まがったことは嫌い。嘘が苦手。ほかにもいろいろ知ってた。ガキの頃までのあいつを。
高校の時、突然のニュースに正直驚いたけど俺は信じなかった。あいつの口から聞かないものは何も信じない。そう決めていたからだ。前に雑誌にただの打ち合わせの時の写真を変に載せられて号泣して俺に誤解を解こうと電話がかかってきた時、俺が信じてやろうって思ったから。あの時みたいにきっと否定するだろうって高をくくっていた。だからこそ、信じられなかった。テレビに映るあいつがそれを肯定するなんて。なぁ、俺ら恋人じゃなかったか?

「っは」
飛び起きて乱れる呼吸をとにかく整える。なんて夢だ。思い出したくもない、最悪な夢だ。くそっ。あいつが最近俺の周りちょろちょろするから。こんな夢を見たんだ。はぁ。つむじを抑えて大きく息を吐く。うっし。もう大丈夫だ。

学際当日、それはそれ大いににぎわっている。こういうとき馬鹿はやっぱりうるさい。
「ちょりーす」
「ちょいーす」
「ちょーす」
あほ三人何やってんだ。沢村と御幸と小絵がそろいにそろって馬鹿なかっこをして馬鹿なことを言っている。頭が痛い。なんだそのダサいへんてこなサングラス。なんだそのダッサイTシャツ。なんでお前まで同じになってんだよ御幸。え?なんかこっちのほうがポジション的に楽しそうだったから?ふざけんな!わかってるくせにややこしいことするなよ!えー?ちょっと御幸隊員早くいかないと終わっちゃうよ!え、いや今始まったばっかりだけど。何言ってるの!こんな楽しい時間なんて一瞬なんだから。行くぞー!と叫び沢村と二人で御幸の手を引いて走っていく。俺そういえばよくあいつの走ってる後姿ばっか見てんな。なんだ。なんでだ。なんか、あいつ。俺のこと避けてる?なんかまともに最初以来話してねぇ気がする。いや、俺がそういういい方したんだ。けどてっきりあいつはもっと勝手にぐいぐい来るかと思ってた。なんで、こんなにむしゃくしゃしてんだよ俺。よかったんだよ。これで。なにもかも、間違ってない。
昼間に小絵のライブがあると沢村と杞紗に引っ張られて体育館に来る。そこにはすでに人が集まっていてもみ合いになっていた。一応映像はところどころにセッティングされた科学研究部と技術研究部の作ったモニターに映されるらしいのだがそれでもやっぱり生で聴きたいと押しかけてきてる人は多くすでに人数制限で入れなくなってるらしい。ライトなどは演劇部の照明係が出演が決まってから本気で負けじとパフォーマンスを考えてきたらしいし、後ろの大道具も短時間で作ったとは思えない出来栄えだ。ただの学際とは思えないくらい力を入れている。やっぱり、あいつはそうされるだけの魅力があるんだろう。会場に入って杞紗たちと合流するとギリギリセーフと言われたが、まだ開始まで結構あるぞ。
「そういえば倉持くんはsaeの歌聞いたことある?」
「いや、ねぇけど」
「saeの曲ってね、なんかほんとにすごくぐっと胸に来るんだよ」
「は?あいつってポップ系じゃねぇの?」
「何言ってるの?saeの真骨頂は失恋ソングだよ。」
「あいつが、失恋ソング?!」
「シングルランキングなんて一枚出せば三週は一位確定なんだから」
小絵と失恋?なんだそりゃ。あの男とうまくいかなかったってことか?でもそんな話、一度も聞いたことねぇし・・・・。じゃぁ空想の話?そんなもんが他人に共感されんのか。でもそういうの考えて作るってプロもいるって聞いたことあるしな。俺はいつの間にあいつのいない世界になれていたんだろう。あのころ、抱いていた気持ちは嘘のようにここにはない。俺も、あいつも、変わったんだ。


昔の僕は死んでしまった

prev / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -