とおいひと
あいつが俺の前に現れて早くも二週間がたっていた。二、三日に一回顔を出す。すっかり野球部とも顔なじみになり普通に何人かとは話すようになっていた。ファンだって公言してたやつはずっとずっとほんとに小絵のことも神様のようにあがめている。ちょっと怖いくらいに。それすらも当たり前に受け入れてしまうあいつはやっぱり、もう違う世界の人間。いうならば俺らは三次元であいつは2.5次元の人間だ。ほんとの意味で関わることなんてこと今だけだろう。

「特別ゲストとして、出てほしい・・・?」
「そうなの。ダメかな?」
「いや、それを俺に言われても・・・・」
杞紗は学際の特別企画の担当者だったから小絵にそのゲストになってほしいと言いだした。それを俺にどうだろうと聞かれてもなんにも言えねぇし。俺あいつの保護者でも何でもない。ただあいつの効果的な方法はなんとなくわかる。だから一応それを教えてやって一緒に交渉をすることになった。沢村もつれて。
「学際の、特別ゲスト・・・?」
「一曲でも全然いいの!今話題の人に出てもらうんだし、少しだけどお金もちゃんと払うから」
杞紗の頼みに小絵は困った顔になる。勝手なことはできないんだと遠まわしに杞紗に訴えていたが杞紗がしつこく言い続けるので断りにくいのだとわかった。時々俺のほうに助けを求めるかのように視線が送られてきたがすべて無視した。いまさら俺がかばう必要なんてねぇし。そのくらい自分で断れよ。なんて思っていたのに自分より年齢的に年下の沢村に上目で見られると事務所に交渉して何とか了承を得て出演を了承した。呆れた。押されたら弱いとこまだなおってなかったのかよ。いやならいやってちゃんと言えよ
杞紗たちがいなくなって二人になると思わす俺はいうつもりのなかったその言葉をぶつけてしまう。やっちまった。と思ったときには遅い。泣いたらどうする。昔さんざん俺は泣かせてきた。俺はあいつの涙にめっぽう弱いんだ。そう焦っているとなぜか小絵は笑う。
「良いんだよ。ちょっとだけ、そういうの興味あったし」
「けどお前、いやそうな顔してただろ」
「まぁ、それは・・・結局はどこにいても普通の友達ってできないなぁって思ってね。杞紗ちゃんも結局はそうか。って思っちゃったの」
仕方ないよね。それがこっち側になった人間の宿命なんだもん。そういって自傷気味に笑う顔は俺の知らない、大人の顔をしていた。いつの間にお前、そんな顔もするようになったんだよ。でもね、いいんだ、ほんとに。興味あったのもほんと。学生って高校生までだったし。それに高校もそういう学校行ったからあんまり出席してなかったし、学際とかもしたことなかったから。少しだけ、ほんの少しだけ私も学生気分になることできるかなって。最初で最後の学際、できることならわたしも招かれる側じゃなくて招く側でやってみたいし。
「最初で最後?」
「こんな風に遊びに来るなんてもうそうそうできないよ」
「だろうな。芸能人様なんだからな」
「あはは。うん、そう。わたしは小絵だけど結局saeを求められるんだから。歌を求められるんだから」
幸せなことだよ。自分の好きなものを求めてもらえるんだから。洋一も野球で誰かに求められたら、きっとこの気持ちわかるよ。自分が認められるその瞬間がどれだけ幸せで、生きた心地がするものなのか。でもそれがどれだけ、苦しいのかも、ね。
なんか、いつもとちげぇ。再会してからも、馬鹿で元気しかなかった小絵がいまは俺よりもはるかに年上の女に見える。


とおいひと

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