暴いた君の涙
俺はあの世界でお前を守ってやることはできない。そう口にする前にあいつはまた突然俺の世界から姿を消した。あの日連れていかれたあいつの世界に、帰っていった。武田はなんでだぁ。と嘆いているがもともといることのほうがおかしかったんだ。あいつは違う世界の人間だ。もう二度と関わることなんてない。

「は?あいつ昨日来てたのか?」
「え?倉持会わなかったの?息抜きに遊びに来ちゃったってめっちゃかわいく登場したんだぞ」
なぜかあいつは俺の知らない間に大学に来ていることがたまにあった。そのたびに武田は必ずあっているらしい。もう完全にsaeの虜になってるらしくいつも何か頼むときは武田のようだ。御幸も何回かあってるらしくそのたびにコミュ障の御幸に話しかけてきては俺のことを聞くらしい。だったら直接俺のところに来ればいいのに。と思っていると御幸もさすが空気を読まない男と言われただけはあるらしくそのことを直接本人に言ったらしい。そしたら彼女いる人のとこにはいかないって決めてるから。恨み事になっても面倒だから。と言っていたらしい。杞紗とのこと言ってなかったのにあいつ知ってたのか。誰かから聞いたのか・・・?
なんで俺だけ避けるんだ?気をつかってんのか?とメールに打ち込んで結局消した。今更何だってんだ。俺が何か言う必要はない。見守るのはあくまで遠くから。自分の世界に戻れそうならそれでいいんだから。例えあいつが俺のことを避けていたとしても。
「ちょっとコンビに行ってくる」
「おぉ」
なぜか慌てた様子で出ていく御幸に違和感を抱きながらも気にせず携帯を弄って杞紗に連絡を取っていた。そのときあいつの身に何が起きてるかも知らずに俺は能天気に明日は晴れっかな。なんてどうせもいいことを考えていた。
それからしばらく、御幸は練習の後どっかにいく。あいつがこんなに頻繁に出かけるのは珍しい。彼女がいるわけでもねぇし。いてもそんな付き合いしないだろお前。それなのに頻繁に出かけていく御幸に何も言えずにただ見送っていた。嫌な予感はしてたんだ。あいつのあんな焦った顔を見たときから。
「倉持、小絵ちゃん見なかった?」
「今日来てたのかあいつ??」
「そのはずなんだけど・・・おかしいな」
御幸は自分の携帯を取り出していきなり電話をかけ始める。それでも相手の反応がないらしくまた何度も電話をかけなおしていた。あいつにかけてんのか?と聞けばそ。と短く言われる。なんで御幸とあいつが電話?どゆことだよ?と聞くと緊急事態だから口止めされてたけど言うわ。今、あいつ、ストーカー被害にあってんだよ。は・・・?はぁ?!なんだよそれ???言葉の通りだ。それで最近は俺が大学に来てるときは送るようにしてたんだけど、なんでか帰ってるし、電話に出ないし、ちょっとまずいことになってそうだって話。
「とりあえず手分けして探すぞ。俺は大事にされたら困るっつってたから適当な交番見つけて適当に連れてくからお前見つけとけよ」
「見つかったらすぐに電話する」
部活の後なんて忘れてがむしゃらに走った。あいつの家なんてわかんねぇし、行く場所なんて想像もつかねぇ。だから走るしかなかった。何もなければそれでいい。けど、頻繁に連絡とっていた御幸を無視する必要はない。何度もかけてるのに一度も応答がないなんて、気になるに決まってんだろ。頼むからただのボケとかであってくれよ。特に意味のないことであってくれよ。あいつがあの日みたいに、昔みたいにめそめそ泣くようなことが起きてないでくれ。
裏道にはいって奥のところにフードをかぶった男がいた。その奥を見るとその男におびえた表情をみせ固まっている小絵がいる。そして男が近づくとあいつはすべてを悟ったかのような顔をしてゆっくりと目を閉じた。なんでそんなすぐあきらめてんだよ。最後まであがけよ。見苦しくても、あがいてくれよ!
「そいつに手を出すな!!」
その言葉の後すぐにその男をぶん殴って、殴り飛ばす。こい!そういって手を差しだすと戸惑いながら手を伸ばす。その手を力強くつかみ引っ張られる。そして昔のように背中に隠した。
「saeちゃん、なんだいその男は。僕というものがありながら、誰なんだい?!」
「なにもしゃべんな。いいから黙って後ろにいとけ」
「ぼくのsaeちゃんに馴れ馴れしく話しかけるな!!!」
殴りかかってこようとする男をひらりとかわし、そのあとすぐに携帯をとりだして電話をかけて御幸に連絡する。しばらくして御幸と一緒に来ていた警察の人がここにたどりつき、男を取り押さえる。ようやく息をできた。そのあと少し事情を聞かれ、このことは内密に処理してくれると約束して警察とは別れる。何も言えずに立ち呆けている小絵を怖い顔をしてにらんだ。
「わかってたのになんで一人で帰ったりしたんだお前は」
「一日、くらい・・・・大丈夫かと思って」
「その結果がこれだぞ。お前、どんだけみんなに心配かけたか分かってんのかよ?!」
「私にだって事情があるんだよ・・・・!」
「そんなこと言ってる場合じゃ、・・・・小絵・・・?」
「別に私が死んだって、悲しくないくせに。」
「なんだよそれ・・・」
「私のことどうでもい癖に、口出ししてこないでよ!私を一人ぼっちにしたのは、洋一じゃない!!杞紗ちゃんがいるから、わたしはっ」
はっと気が付く。こいつの足はがくがく震え、とうとう力が入らなくなってその場に座り込んだ。口も震えて、声も出なくて必死に震えを抑えようとしても収まらない。なんで自分の気持ちばっか押し付けてんだよ俺。怖かったに決まってるだろ。必死にそれを隠してたんだ。なのに全部俺が暴いて、傷つけた。俺が拒絶したことをずっとほんとは忘れてなかったんだ。それでもそんなそぶりを見せずに、一生懸命隠してくれてたんだ。悪い。ぶっきらぼうにその一言しか言わない俺に小絵はしがみついて必死に助けを求めた。俺もそんな小絵も杞紗が来たことにも気づかず、抱きしめ続けた。

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