初めて君のいる世界をみた
約束の日、遊園地に4人で行くと小絵は待ち合わせ場所にいなかった。あいつおっせぇな。と思っていると後ろから突然背中を押されて振り返る。小絵がまた派手なサングラスをかけてにやにやと笑っていた。てかそのサングラスこの遊園地のあのキャラクターのやつじゃね?張り切りすぎだろ。
「おはよーございまーす!お待たせしました」
「saeさんそのサングラス似合ってます!どうしたんっすか?」
「これ?ちょっと前に買い物に行ったときに見つけてせっかくここに来るしって買ってみた」
沢村君のもあるよ。といって鞄からもう一つ同じものをだし、沢村の頭につけてやる。そして二人できゃっきゃさわぎだす。お前ら同じかよ。走って勝手に先に行くところは昔から変わらない。散々騒いで少し疲れておとなしくなるまではこっちがいつも振り回されてばっかりだ。
「saeさんそういえばすごい前テレビで騒がれてたんすよね?大物芸能人となんチャラって」
沢村がいとして聞いたわけじゃない言葉に思わず耳を傾けてしまった。だってそれは俺がずっと気になってたことだから。後ろにいる小絵の表情は見えない。だからその疑問をどんな気持ちで受け止めたかなんてわかんねぇ。けどなぜか、息をのんでいたような気がした。
「そういうのは何もしゃべっちゃいけないっていう暗黙の了解なんだ。だから教えれない。ごめんね」
「すいやせん!そうとは知らずに」
「いいのいいの、大したことじゃないし。もう今更どうでもいいことだから」
なんでだ。なんかすべてを投げやったように聞こえるのは。なんでだ。こんなにも胸騒ぎがするのは。俺は何か大切なことに気づいていない気がする。それが何なのかさっぱりわからないけど、でもなぜか今こいつから離れたら後悔する気がした。ちゃんと見ててやらないと。どうせ芸能界というものにちょっと嫌気がさして息抜きをしに来てるだけだろうけど。こいつがもうここに来なくたってやっていけるようになるまで遠くから見ておこう。
「よういち」
「は?!」
「彼女なんだからそう呼んでもいいでしょ?」
「い、いいけどべつに」
なんだか気恥ずかしくてそっぽを向くと照れてる?と杞紗は笑う。その通りで言い返せなくてムスッとするとかわいいなんて言うから納得いかない。けどこんなのが嫌じゃないって思うんだからやっぱ好きなんだろうなってまた再確認した。
お昼を売店でかっていっしょに分けながら食べてあれのりたいこれのりたいっていう希望に付き合って、一緒にはしゃぐ。こんなの久しぶりで俺も楽しくてすっかりさっき決めたばかりのことを忘れていた。気が付いたときには小絵の姿がなくなっていた。さっきまでいたんだと主張する沢村にちょっと黙れと言って携帯を取り出し電話を掛けるが反応はない。昔っからあいつ携帯とかほっとくタイプだった。けど普通にはぐれたなら携帯ぐらい見ろよ。
悪いけど俺探してくるわ。といって御幸たちを置いて自分の自慢の足で走ってあいつを探す。わざとじゃないよな。自暴自棄になってるとかじゃねぇよな?なんかあったんだろ。そんなのとっくに気づいてる。いきなり俺の前の現れたのだってその何かのせいだろ。けど何があったって自暴自棄になんかなるなよ。お前には夢があるんだろ。その才能を持ってんだから、逃げたりすんなよ。
争ってる男女の声が聞こえてそっちに視線をやるとちょうどあいつが知らない男に無理やり腕を引かれていた。やめろ。そいつに触れるな。気が付けばその男から小絵を奪い返し自分の背中にかくまっていた。
「わりぃけど、どっかいってくれねぇか」
口から出た言葉は荒々しいものではないけどはっきりとして敵意をもって男をにらんだ。すぐさま去っていく男を見届け振り返ると小絵がそっと俺の服の端を握った。そして声を殺し、少しだけ涙を流した。お前はこんな世界で一人で戦っていたのか。泣き虫なくせに、そんな怖いとこにいたのかよ。

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