沢村君という人

「俺、キャプテンになった」
「うん」
「でも、エースナンバーはもらえなかった」
「そっか」
「エースじゃねぇけど精一杯頑張るから、最後までみててくんね?」
「見てるよ。今更じゃんか。お隣さん3年目だもん」


沢村君という人との3年間


出会いは教室。きっかけは隣の席だったってことだ。人懐っこい明るい笑顔を向けられて自然に自分まで笑顔になった。課題をきっかけにどんどん仲良くなった。なんの縁かずっと一緒のクラス、お隣の席。2年生でも3年生でも変わらず。変わったのは些細なこと。名前呼びになったり、一緒にいる時間が多くなったり。そんなことだけ。でも、それでもずっと見てきた。だからたとえ君が『1』を背中に背負ってなくても、それでもいいよ。この瞬間に、すべてが詰まってるんだから。
「おめでとう、栄純・・・・」
決まりました!ここで熱い戦いに決着がつきました!!アナウンサーの声を聞きながら私はその場に崩れそうになる足を必死に立たせてその姿を最後まで見届ける。嗚呼が漏れる。仲間に囲まれて騒いでるその姿をずっと見たかった。


青道高校が念願の全国制覇を果たした



学校は一気にお祝いモード。みんなが声をかけていく。もちろんキャプテンを務めた栄純は人に囲まれ続けている。私はあの日から一度も口を聞いていない。ケンカなんてしてないし、話したくないわけじゃないけど今はとりあえず周りに譲ろうと思ってる。まだ、まだなのだ。もう少しだけ待っていなくちゃきっと、泣けないから。
夕方、久しぶりにグラウンドをのぞくと部活はないと聞いていたのにそこにはマウンドの上に制服のまま立っている栄純がいた。栄純。そう名前を呼ぶと栄純は振り返って私の顔を見るとぼろぼろと涙をこぼした。ゆっくり近づいて行ってそっと抱きしめる。
「勝った。優勝した。先輩たちの時、できなかったことができたっ」
「うん。おめでとう。すごかったよ」
「うれしいのに、悔しくてたまらない。なんで去年できなかったんだろって、なんでエースじゃなかったんだろって、考えれば考えるほど・・・・」
私の肩に顔を埋めて栄純はぐずぐずと鼻を鳴らしながら涙を流し続けた。全部全部が願った通りになったわけじゃない。だってずっと願ってた最初からの夢は、最後までかなわなかったんだ。エースとして、一度もここで立つことができなかったんだから。贅沢だと誰が言おうとも、私はそんなことないっていうよ。ずっとずっと見てきたから知ってるよ。飴玉ひとつで笑顔になる君も、小さな野球ボール一つで真剣な顔をしたり、悔しがったり、泣いたりする君を、知ってるから。沢村君という人を見続けてきたから。最初から決めてたんだ私。全部が終わったらずっと言おうと思ってたことがある。
「お疲れさま、栄純。誰よりもかっこいい投手だったよ」


3年間、沢村君という人は、誰よりもかっこいい投手だった。
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