沢村君という人

夏が、終わった。2年連続甲子園出場。でも優勝までは届かなかった。最後の最後で負けてしまったのだ。その悔しさは、正直私にはすべてわかってあげられないほどのものだ。それでも下を向いていないでほしいと思うのは悪いことだろうか。
栄純は今日もあまり元気がない。部活では明るくふるまっているけど私の隣の席に座ると必ず机をひっつけてきてもたれかかってきて甘えてくるのだ。ここしか逃げ場がないのだろう。明るくて、元気な沢村栄純。みんなの期待を、裏切れない。どれだけ悔しくても、後輩の前で泣けないし、ましてや先輩の前でなんて。同期の中でもみんなが思い浮かぶのは元気な沢村栄純。だから栄純は泣くこともできない。そんな栄純に私がしてあげれることって、何かないのかな
「あの、片岡先生」
「どうしたみょうじ?」
職員室に入ってまっすぐ片岡先生の前に行くとお願いがありますと頭を下げた。一日、沢村に休みをください。お願いします。次の大会が近いことだってわかってる。だけどそれでも、一日だけでいいから、栄純に野球とは関係ないところにいてほしかった。そして思い切り泣いてほしかった。
「今週の土曜日は休みになっている。金曜も早めに切り上げるつもりだからそれからならどうするにもお前たちの自由だ。」
「あ、ありがとうございます!」
やった!お礼をもう一度行って深く頭を下げ職員室を出ようとするとみょうじ。と先生から呼び止められる。振り返ると一言、沢村を頼む。と言われた。はい。としっかり返事をして外に飛び出す。野球部の練習が終わった後、急いで帰って親に話て男友達を一晩だけ泊めてくれないかとお願いする。もちろん大反対された。突然だし、しかも男となればなおさらだ。それでも折れるわけにはいかなくて何度も頼み込む。そしたら帰ってきたばかりのお兄ちゃんが話を聞いて一晩くらいいいじゃん。変なところで泊まられるよりも。と言い、しぶしぶ了承を得た。お兄ちゃんにお礼を言うとお前があんなに必死になることそうそうないしな。理由があるんだろ。といって頭をなでられた。お兄ちゃんが私のお兄ちゃんでよかった。現金だけどそう思った。
そして金曜日、金丸たちにも協力してもらい勝手に荷物をまとめてもらい、それをもって一足先に家に荷物を置きに行く。戻ってきてからはいつものように外から黙って見つめて終わるのを待つ。作戦的には帰り道わたしを送ってこいと金丸が言って家まで送ってもらい、せっかくだからとご飯を食べていってもらってそのまま泊まってもらって、次の日外に出かけようと思う。みんなも栄純のことを心配してくれてるから今回のこと、協力してくれるのだ。そして私は任されてる立場。頑張らなくちゃ。
練習が終わるといつものように栄純は傍まで来て今日もありがとな。といって笑う。その頭をわしゃわしゃと撫でているとそういえば最近変質者が現れたらしいよ。と小湊くんが言い出してマジかよ。と金丸がのっかかる。まさかの東条君まで参戦して女の子の夜道の一人歩きは危ないね。と言ってじっと私のほうを見る。え。え。なにこれ?!何言えばいいの?!
「なまえ今日は送ってくからちょっと待ってろよ!」
「は?え?ちょ、栄純?!」
突然走り出した栄純は着替えてくる!とだけ叫んで去っていく。い、いや作戦通りなんだけどまさかこんな展開になるとは思わなかった。す、すごいね。うん。よくわからないけど結局そのあとも作戦通りうまくいき、一緒にご飯を食べて同じ部屋で寝た。さすがにばらばらの布団だけどなんだかドキドキして二人してよくわからない緊張をして、顔を見合わせて笑った。それから栄純の話をたくさん聞いた。優勝を逃してしまった悔しさももちろんある。けど最後の舞台でもエースナンバーを背負えなかったことが何より悔しいと思う自分が嫌で、その実力がない自分が嫌で、悔しくてたまらないらしい。
「俺さ、御幸に自分の球受けてほしくて青道に来たんだ」
「一也に?」
「見学に来たときに受けてもらったんだけど、そん時のことが・・・・忘れらんなくて」
昔の仲間まで捨ててきたんだけどな。そう語る栄純はやっぱり悲しそうだった。



夏に失恋し、夢に泣いた
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