沢村君というひと

二年生になってクラス替えがあって教室に入るとまた栄純がいた。また同じクラスのお隣さんだななまえ。なんて言って笑う。甲子園にいってから栄純はちょっとかっこよくなった。そして私も栄純と呼ぶように変わっていた。
「今年の夏は甲子園いけるかなぁ、野球部」
「行くに決まってるだろ!負けられねぇよ、もっち先輩とか御幸にとっては最後の夏なんだ。去年みたいに逃げたりはしねぇ」
あのイップス以来かな。ちょっと栄純はしっかりしてきてると思う。そして大好きな先輩のためにも絶対負けられないと闘志を燃やしている。夏の選抜までもう少し、先に合宿やら背番号の発表やらがある。それを乗り越えての夏なのだ。そしてまた栄純は寝る。クーラーの聞いた教室で寝る。私の肩に頭をのせてぐーすか。もう慣れたのか先生はこちらを気にすることはない。わたしも気にせず自分の勉強に取り組んだ。授業が終わっても起きないときはある。そのまますてっと転んできたので膝枕をしたこともある。だからかいつの間にか感覚がおかしくなってきて栄純のすることをある程度なんでも受け止めれるようになっていた。その一つが下の名前で呼ぶということだった
「あ、栄純今度の練習試合見に行くね」
「ほんとか?!おしおーしおし!気合入れた!」
「ふぬけた試合しないでよ?」
栄純はエースナンバーをもらうと張り切っていた。降谷には負けられないと。わたしはその背中を見てるのは嫌いじゃないし、応援もしていた。誰にも負けないくらいの努力をしてるのを知ってたし、しっかりとエースナンバーがどういうものか考えている栄純になら背負ってほしいとも思った。けどやっぱり世界は不平等だ。エースナンバーは降谷君に決まった。才能というものの前には努力なんて意味がない。まるでそういわれているようだ。
栄純は次の日も変わらず明るかった。笑顔でみんなに笑いかけていつものようにうるさい。だけどどこか無理をしている。そうわかったのは私が少しばかり長くて深い付き合いをしてるからじゃない。ずっと目でその姿を追っていたからだ。
「試合、みにこなくていい」
栄純が突然そんなことを言いだした。理由を聞いてもこたえてくれずただかたくなに見に来なくていいとつづけた。しばらくしてまた私は飴を投げつけることにした。こっそり、こっそりと。見に来なくていいっていわれても見に行った。どんな試合も見ておきたかった。頑張ってる姿を知っておきたかった。最近また飴が降ってくると金丸君に相談してるのを見かけて下手なこと言うなよ。と威嚇してると金丸君はお前がふぬけてるからカツ入れてんだよ。としれっと私の気持ちを代弁してくれた。うん、金丸君いい奴じゃないか。大好きになりそうだ。そしてもっと言ってやれ。
いつものように寝てる栄純の頭を膝の上に移動させて授業の時のままくっついた机の上にお弁当を広げる。そしてぱくぱくたべていると俺もほしい。といつの間にか目を覚ました栄純が上目づかいでこちらを見ていた。あんたは食堂のおばちゃん特製のお弁当あるでしょうが、と言いたかったがいつか手作り弁当が食べたいと言い出した栄純にお願いされてからずっと栄純の分まで持ってきている。こちらのどうぞ。というと口を開けてまたひな鳥みたいに餌を待つから呆れてため息をこぼし、口の中におかずを入れてあげる。もぐもぐと口を動かし。おいしいな。と栄純は笑った。いつもの眩しい笑顔のほうだ。あ。戻った。そう思ったのと同時くらいにまた試合見に来てほしいとお願いされた。


二年目、梅雨に歯を食いしばり、夏にそれをバネにする
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