沢村君というひと

彼は驚くほど天然だ。女子に対しては無自覚な天然タラシだ。いや、男に対してもあるかもしれないけどそっちはあまり知りたくないので知らないことにしておく。だから勘違いしちゃう女の子も出てくるわけで、そうなると矛先がこちらを向いたりもするわけだ。そして極め付けに甲子園出場を決めたチームのレギュラーで投手。こんな女子に魅力的なお飾りはあるまい。顔もかわいいし、ルックスも悪くない。頭が悪いのが玉に傷ってくらい。いや、うるさいのもちょっとあれかな。とまぁそんなわけでファンができるわけですよ。となると女子特有のよくわからない自分のもの宣言が始まるんですよ。親睦の深まった私とかは標的になるわけですよ。何が言いたいかっていうと、嫌がらせにあってます。
多分相手のめぼしはついてる。ラブレターを渡してほしいと頼まれたのだけれど面倒だったから断ったのがついこの間のことだ。で、恨まれたんだろうな。いろいろな悪戯されるけど教科書隠されるのは困る。何が困るって教科書忘れたら沢村君がどれだけ断っても机引っ付けて見せてくれる。そこまではいいけどそのあとうとうとして私の肩を借りて眠るのだ。これはかなり気まずい。先生も注意したくてもできなさそうだ。ごめんね先生。私は無心になるしかないわ。例え寝息が耳にかかってきたとしても。
「ん〜・・・・」
「やっと起きた沢村君。」
「ん。ん〜・・・」
まだ寝ぼけている沢村君に昼休みだと告げるともうちょっとと返ってくる。お昼ご飯食べ底ねるよ沢村君。私は食べるけどね!なんて思いながら手作りサンドウィッチをほおばっていると匂いにつられて沢村君が起きた。一口。といって口を開けてくるのでその口元に新しいサンドウィッチを持って行くとかじってもぐもぐとしだす。それを見て私も食べる。あー。と言われればサンドウィッチを口元に持って行く。なんてよくわからないことしていた。金丸君からはひな鳥に餌与えてるみたいだったなんて言われた。
「お前毎回みょうじにもたれて寝るなよ。みょうじも教科書忘れんな」
「ん。いいのいいの。放課後には返ってくるから。返ってこなかったら強制回収するから」
「人に貸してんのか?」
「そんなとこー。ほら、沢村君いい加減起きろ」
「んー。だってみょうじいい匂いするから・・・あったかいし、眠くなんだもん」
今の発言を聞いて一瞬固まった金丸君をみて沢村君だから。というと振り落とそうとしていた腕を何とかおさめてくれた。天然とは恐ろしい。なんていうのは数日後より思うことになった。
今度はまさかの体育の着替えの時にセーターを隠されたのだ。この時期に糞馬鹿野郎!とか言いたいけど動くのも寒いので机に座ってじっとしている。すると沢村君が私に気が付いて傍までよって来るといきなり自分のセーターを脱いでそれを私にかぶせた。かぶせるとなぜか納得した顔をしてにかっと笑う。いやいや、借りるわけにはいかないって!!慌てて返そうとすると俺体温高いからへーき!それにみょうじの体温もらえるし!なんていうからさすがの金丸もバシッとその頭を殴った。うん、今の発言よろしくないよ。
「なにすんだよかねまーる!」
「お前の発言は天然で許されるものを超えてんだよ!」
「なんだよ別にいいじゃん!だってセーター来てるほうがみょうじ似合うし」
「わたしは真剣にたまにこの子どこで育ってきたんだろうって思うよ」
「みょうじちょっと一度立ってみて」
「へ?いいけど?」
「ほら、俺のだからおっきくてぶかぶか。ワンピースみたいだな。モエ袖だな。少女漫画みたいでかわいいな」
すごい口説き文句をさらっといえるなんて。同じセリフ金丸君にいえる?と聞くといえるわけないだろ!と強く否定された。だよね。私も無理だもん。それできるって、ほんとすごいな沢村君。そしてまたしばらくして急に当たり前のように名前呼びされたときは一瞬呆けてしまうのだった。

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