沢村君というひと

沢村栄純君。騒がしくて、明るく人懐っこい男の子。かわいい顔しているのに野球をするときは誰よりも男らしいなんてギャップも兼ね備えている。裏表もなくて優しいと女の子にも好評だ。そんな彼と私はなぜか3年間同じクラス隣、もしくは前後の席になって過ごした。

1年生のとき、初めて沢村君をみたときすごいなって思った。自分の意思をはっきりぶつけて、目標に向かってまっすぐと突き進む。かっこいいなって心から思った。そんな沢村君はお勉強というものがとても苦手である。かくいう私も得意ではないが容量はそこまで悪くないので単位に係わるようなことにはならない。いわゆる赤点とやらは避けている。けれど沢村君は赤点というものにとても縁があるらしくよく金丸君に泣きつく羽目になっている。そんな光景がなんとも和むのだった。
授業中課題を出され、今日中に説いて提出と言われたプリントをにらめっこする。うーん。そこまで難しくはないけど何より面倒なのだ。こうも活字が並ぶと頭を動かす気になれない。どうするかな。適当にわからないふりもしていいかもしれない。間違えたーとか半分くらいまでなら私の成績で通じるだろう。うんうん。そう決めると適当に問題を解いていく。そして出来上がったプリントを見てにんまりと微笑み机の上に伏せる。これぞ学生の幸せ。なんて思っていると何か視線を感じて腕の隙間から周りを見ると沢村君がこちらを見ていた。なんだろう。顔を上げてどうかしたの?と聞くとここわかんなくて。できてるなら教えてほしい。と言われどれどれとプリントをのぞき込む。ふむ。これはこの公式を使って、ここでこうやって説いて。これはこうしてこう。うん、これでこうやって、ここでつなげば。出来上がり。ほぉ。すげぇな。みょうじ頭いいんだな!普通だよ。いやいや、すげぇよ。あれ?でもみょうじのプリント答え違う・・・?あー、えっとこれはその。うん。違うね。うん。
下手に沢村君にいうと大声で極秘をばらされそうだったので違うね。で済ませることにした。そのあともわからないと言って聞いてきたところをわかる範囲で教えていると授業きっかりの時間に終わってしまった。昼寝ができなかった・・・。とショックはあるけど充実だといえる。そのあと先生に褒められた沢村君が私に教えてもらったなんて告げ口するまでは。
放課後、日誌を書いていると窓から見える野球部のグラウンドがやけににぎやかだ。まただ。また彼の声だ。こんなに離れたところまでしっかり聞こえてくるなんて、どれだけ大きな声を出しているんだろうか。そのうちつぶれてしまわないかといらぬ心配をしてしまうのは君のせいだ。沢村君はすごい人だ。まっすぐすぎてたまに人からねたまれる。けどそれも笑ってはねのけて、そんなねたんでた人までもを魅了する。その笑顔のとりこにされた人間がどれほどいるだろうか。きっと被害者は数えきれないほどだろう。
沢村君がイップスというものになったとうわさで聞いた。いつもより暗い空気。前から伝わってくる彼の悔しさとかそんないろいろなものに私までもしょぼんとなる。そんな似合わないことするな。そういう意味を込めてポケットに入れていた飴玉を前に向かって投げつけた。頭の上にぽてって落ちるように。突然のことに驚いた沢村君は授業中なのに騒ぎ出す。私は完全に知らぬふりをして騒がしい声を子守歌に目を閉じる。悔しいんでしょ。先輩たちの夏を終わらせてしまったことが。でもね、でも頑張って沢村君。悔しさをばねに頑張れ。いつかエースになれ。


1年目、春は騒ぎ、夏に苦しむ
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