No.4 | ナノ

高校生の頃、わたしは好きな人がいた。それは絶対に叶わない恋だった。わかっていなかったわけじゃない。それでも、諦めれなかったのだ。こんな一方的な思いでも、捨てれなかったのだ。そんな日々が一年すぎて、わたしはいつもふざけてその人に付き合ってあげようか?なんて偉そうなことをいっていた。あの人はいつもあきれた顔をしてガキのおふざけも大概にしろと怒られた。本気でいったっていつもそうやってかわされた。それがいつもかなしかった。でも、困らせたかったわけじゃない。問題になって迷惑かけるくらいならずっとそっちの方がいい。そう思ってた。なのにあの人の優しさを知ればしるほど欲深くなって、わたしをみて。いつしかそういってしまいそうになった。わたしに望みなんてないのに。だって、その人は先生で、もう奥さんだっているのだから。それに・・・
「ねぇ、先生」
「なんだ?」
「好きだよ。」
「またお前は・・・・。いい加減に」
「一度だけでいいから、忘れてくれていいから。お願い。ちゃんと答えて」
「お前・・・・」
先生はふぅ。吐息をはいてゆっくりと頭を下げた。ごめん。俺には好きな人がいる。その言葉を聞いてやっとわたしは笑えた。よかった。出たのはそのことばだった。自分でもよくからないけどひどく安堵したのだ。先生ありがとう!そうやっと、笑顔でお礼をいえた。わたしのくだらない悩みも真剣に聞いてくれて、真っ向からぶつかってくれた。嬉しかった。楽しかった。幸せだった。先生に出会えて、恋をしてよかった。そう思ったのだ。何にもなかったわたしに、この高校生活に色をくれたのは先生だった。その次の日、わたしは初めて2度目の恋の相手と口を利いたのだ。
失恋の定番、髪を切る。やってみたくなってやったのだ。ふんわり揺れていた髪は跡形もない。生まれて初めてのショートカット。朝イチに会った友達はみんな誰?といってくるくらい変わっていた。朝イチに先生にも会った。それは驚いた顔をしてたけどどうだ!っていったら笑って似合うといってもらえた。もうそれだけで十分だったのだ。そんなとき、御幸がきた。教室に。べつに席が近かったわけでもない。けど、たまたま隣を通ってわたしを見たのだ。そしてあれ?お前髪切った?といったのだ。そこからわたしと御幸の関係が変わっていったのだ。
何してんの。今日の課題。お前やってないのか。やる習慣なかったんだもん。くそー!誰か私に今日課題提出っていってくれたらよかったのに。お前何気に不真面目なのな。勝手に真面目認識しないでください。いや、いつもやってんじゃん。この教科はしなかったの!わざと?そう聞かれて思わず口をつぐむ。いや、別にわざとやらない教科なんて誰でもあるだろう。甘く見てくれる先生とかそういうの。けどこの教科は違う。むしろ厳しいほうだろう。放課後に課題を課せられたりするのだから。つまりは何かしらの理由があると思うわけだ。そしてその理由を私は話したくない。だって、先生と二人っきりになれるから。そんな下心で先生を困らせていたなんて何とも最低で、面倒な生徒である。今更ながら申し訳ないと思う。やっぱ、お前好きだったんだろ。あいつのこと。へ?前からそうかなとは思ってたけど、やっぱ本気だったか。ま、前から?この授業だけいっつも怒られてるから変だなって倉持と話してたんだよ。理由があるなら下心。そう普通に考え付くだろ?・・・さすがは名門高校の正捕手さま。読みはばっちりですね。あれ?読み外れたわ。もっと言い訳すると思ってた。しても無駄なことはしません。私、そういうところバカじゃないんで。良い性格してるな。そりゃどうも。
御幸との会話なんてそんなの。いつも険悪とまではいかないがあまりいい雰囲気にはならない。それでも、それでもなぜかそれをやめることはなかった。めんどくさいとは思っても、いやだとは思わなかったのだ。それが不思議なところだった。先生の授業はちゃんと真面目に聞いた。前みたいに課題をわざとやらなかったり、テストの点数で補講を受けたりすることもなくなった。先生に会うためにあった時間は今じゃ暇になり、ぼーっとするのが日課になった。
「前みたいに生き生きしてないな」
「は?」
「なに?振られたの?」
御幸のからかうような口調に言い返すことができなかった。それは私がずっと目をそらしてきたものだ。振られて、まだ完全に立ち直れていないのだ。まだ、まだどうしようもないほど・・・・。まだ、好きなんだろ?そんなすぐに忘れられる人なら、こんなに苦労しないっての。あいつのどこが良かったの?全部。話しきれないほどの好きなところがあったの。どうでもいいことさえ、好きだったのよ。へー。たとえば?授業中、呆れた顔をしながらも私にもちゃんとしっかり説明してくれるところ。補講だって毎回ちゃんと対策プリント丁寧に作って、補講のテストで満点取って見せたらこの野郎。って怒るくせにうれしそうに笑うの。あとね、帰るときばったり会うとふんわり頭をなでてくれたの。おっきな手がやさしく触れるその瞬間が好き。御幸にそう語っているとだんだんとわくわくしている自分に気づき言葉を止めて大きなため息を漏らした。こんなんじゃダメだって思ってたのに、なかなか変われないものだ。
「失恋を忘れるためにはどうしたらいいか教えてやろうか?」
「参考にならないだろうけど参考程度に聞いてあげるよ」
「ひでーな。なんだよ。そんなに信用ない?」
「御幸好きな人いないじゃん。彼女だってできたことないし、告白だって断ってばっかなんでしょ?そんな人にわかるの?」
「後半二つは事実だけど最初のははずれ。俺好きな奴いる。今」
その発言に驚いて目を見開くと御幸は笑う。そいつな、失恋したらしくってさ。ちょっと付け入るスキあるかな?って思ったのに全然ねーの。俺目の前にして違う男のことばっか嬉しそうな顔して話すの。すんげぇ悔しい。なんで俺じゃダメなの?そんなにあいつがいいわけ?なんて考えるくらいには好きなやつがいるよ。自惚れだと正直思いたいがあまりにも今の自分と同じ状況にいる御幸の好きな人。からかっているのかと思えば目は真剣だ。なんといえばいいからわからずただじっと見つめると御幸は困った顔をしてそんな顔しないでよ。といって私の頭をやさしくなでる。
「いつかあいつより大きくなるし、授業のわかんないところも、補講の対策もしてやる。満点取ったらほめるし、帰りはこれから毎日やさしく頭なでてやるからさ。こっちに転がって落ちてきてくれね?」
この時切なげに揺れるその目に私はころりと転がり始めたのだ

ゆらゆらと揺れて転がって

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