No.4 | ナノ

先生おはよう!の声におはよう。と返す。それからひらひらと手を振れば彼女たちも振り替えしてくれた。去っていく彼女たちがスカートをひるがえし、ひらりと宙をまう。わたしも、あれと同じものを着ていたなんてにわかに信じられない気持ちだ。そう言えば昔はあのくらい短い丈のスカートを平気ではいていたな。今では膝下。もしくはぎりぎり見えるくらいが当たり前となっていた。あんなに肌にはりがあれば同じことが出来たかもしれないけど、わたしにあの若さはない。養護教諭の先生は美人でぼんきゅっぼん。で学生に負けないくらいのはりがあるからあんな丈のスカートをはいてもいいんだろな・・・・なんて考えながら次の教室に向かう。
教室に入って委員長の号令であいさつをして、黒板に白い文字をかいていくと何人かがうたた寝をしだす。そのうちの一人に隣の席の男の子がイタズラをしかけ、その子は飛び起きた。くすりと笑い、朝からおつかれさまですね。なんていうとその子は先生の声眠くなる!と文句にならない文句をいわれた。わかるわかる。わたしも眠かったなぁ。それで、先生の目を盗んでどうやって寝るか考えたのよね。窓側のせきなんて、こぼれ日万々歳!で日本史の邑田先生の授業狙って寝てたなぁ。なんてわたしがいうとわたしも!おれも!とみんなが言い出した。こらこら、ちゃんと聞かないと。何て言っても説得力ないよ先生なんて言われて笑った。今日も穏やかな1日が始まった。
昼休みになるとわたしは教員準備室に入ってお昼を食べる。教員準備室はいくつかあって、その何個かの部屋にはそれぞれの先生が各々に使っている。わたしは教員準備室4の部屋を借りて、のほほんとお昼のひとときを過ごすのが好きだ。準備とかのためのパソコンと向かい合いながら授業のプリントをまとめていく。印刷ボタンを押すと同時に部屋の扉が開いた。
「こんなとこで引きこもってたらカビはえるよ先生」
「そんなことばっかりいってると好きな子に嫌われちゃうわよ樋野くん。」
「なっ!要らない世話だよ!」
「そっくりそのまま返してあげよう。」
樋野くんはそのままずかずかと入ってきて椅子に座るとじっとこちらを見つめてくる。なぁ。何?付き合って。どこに?ってボケてほしい?そんなボケあんた似合わない。酷いなぁ。といいながらクスクスと笑うとほら見ろと言われた。付き合って。どこに?そのボケ要らないっていった。わたしの授業で寝るような君とは付き合えません。愛を感じないわ。思ってないだろそれ。ふふ。あのね、わたし先生。そういって額をコツくとすねた顔をされる。どこかの後輩を思いだす。
「どうやったら付き合ってくれる?」
「無理だってば。先生、生徒って関係以前にあなたとは付き合えないの。」
「なんて?」
「樋野くんにわたしが恋してないから。」
「どうしたら恋してくれんの?」
「どうしても無理よ。わたし、まだずっと好きな人いるから。ずっとその人に恋したままだから。」
いっつも、そうやってはぐらかす。はぐらかしてないよ。事実だから。じゃあその相手ってだれ?俺よりもかっこいいの?俺よりも野球うまいの?俺、この学校の4番はってんだよ。なんでもかんでも野球で考えるなおばか。それさっきの質問の答えだけど樋野くんのほうがカッコいいけど、カッコ悪いところまでどうしようもなく好きなんだから仕方ないじゃん。ああ、野球に関してはあいつの方が上手いよ。それはあんたがちゃんと俺たちの試合見てないから言えるんだよ!俺らのが絶対すごいから!はっはっは。すごい自信。思わず感動して笑ってしまった。バカにしてんだろ。あのね、わたし先生だっていってんでしょこのおバカ!
昼休みももう終わるから戻りなさいというとちぇ。とか言いながらも戻っていく。公私混同はしないからな、樋野くん。ちゃんと授業にはでる。それで部活に迷惑をかけたりしないために。野球が一番。ほんと、あのひとに似てるよ。
「元気にしてるかなぁ。」
2年ぶりに戻ってきたこの地はあのときから全然かわらない。2年間わたしはここから結構離れた場所にいっていた。仕事の都合で、だ。そして2年したらもどされて、今になる。あれから4年。案外早いものだ。結局かれは後輩のことを公にはしなかった。まだ早いと思ったのか、なんなのか、わたしにはわからないが彼が幸せであることを願うばかりだ。わたしはまだ、あれから全然前に進めていないけど、ほんとにいちに歩程度だけど、きっと彼はもうずいぶん前を進んでいるだろうけど、わたしが彼にできるのはそれくらいだから、それくらいだけ、するのをゆるしてほしい。いつかわたしが彼とのことをすべて認めて、受け入れることができたらもう一度会いに行きたい。二股男。なんてわらいながらいって。笑い会いたいな。そのときにはきっとわたしのとなりには彼じゃないいとおしいと思える人がいることだろう。そんな未来をまだ想像すらできないけど、いつか来ると信じて、今日も仕事に励む。この、愛おしい母校にて、君を思ってみた初夏のこと。君との思い出に浸った、午後の木漏れ日。

過去の僕らは鏡のようだ

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