No.4 | ナノ

純白のドレスに包まれて、赤い絨毯の上を歩く。こんな日が来ると、あのころは思ってもいなかった。そのうち愛人にでもなるんじゃないかってくらいに思ってたのに。案外わたしは強運の持ち主かもしれない。人の幸せを返したら、自分の幸せまで帰ってきたのだから。ねぇ、一也さん。今あなたは、幸せですか?


大学に入ってすぐ、中学から続けていた野球部のマネージャーを大学でもすることにした。どれだけ続けてもどんくさくて、いっぱいドジを踏む。そのたびに助けてくれるのが一也さんだった。困った顔をするくせに笑って、お前ほんとにおもしろいなっていってやさしい顔をする。その顔を見るたびにときめいて、だんだんと好きになっていった。好きになってから恋人がいることを知った。その時はびっくりしていっぱい家で泣いた。諦めようと思っても目が合うだけでバクバク言う心臓には嘘をつけない。ああ、この人は好きになってはいけない人だった。
一也さんはやさしかった。それも私には特別やさしかった。たぶん自惚れなんかじゃなくて、事実。その理由を知らなかったころは私を好きになってくれるかもしれないと希望を持った。彼女の気持ちも考えず好きになってもらえることばかり考えてた。だって、頑張るたびに一也さんは嬉しそうにするから。頑張りたくなった。
なのに突然ある日からさけられて、一緒に遊ぶ予定もキャンセルされて、ひたすら彼女といるところを見た。胸が苦しくて張り裂けそうで、涙が止まらなくて。当たり前の光景なのになんでっていいそうになった。諦めよう。そう思うたびに無理だって痛いほどわかった。どうしようもないほど、もう好きになってたんだ。知ってるんだよ私。あの人のいいところとわるいところ。顔だけじゃないんだよ。ちゃんと、中を見たんだよ。ミーハーなんかじゃない、これは純粋な恋心なんだ。
雨の日、無理やり一也さんを捕まえて誰もいない倉庫裏で好きなんだと、あきらめられないんだと伝えた。少しも好きになってくれてないなら、ちゃんと消えるから。少しも私のこと見てないの?そんなことないでしょ?だって、あんなにやさしい目をしてたもん!
それから私は二番目の女になった。彼女さんは知らない。私と一也さんだけの秘密。だったはずなのに・・・・、あの人はすぐに気づいていた。たまたますれ違った時ドキッとした私に、あの人のことよろしくね。といって去っていった。普通に考えればマネージャーとしてだとおもう。けど、わかる。女同士だからこそ分かる。あの人は気づいている。気づいていて、知らないふりをしているのだ。きっとずっと、私が醜い感情を持つ前からずっと。彼女の方が何倍も一也さんを理解していたのだから。
それから秘密の逢瀬は続き、だんだんと一也さんは彼女さんのところに帰らなくなった。年明けを一緒に過ごしたいといったら、ほんとに一緒に過ごしてくれた。彼女さんはいいのかと聞いたらいいの。俺がお前と一緒にいたいから。っていって笑ってくれた。ちゅーして、ぎゅって抱き着いてそれからいろいろなことをして、それでも私はどこかで気づいていた。一也さんは私を好きなんじゃないって。少しは好きでいてくれてるとは思う。けど、それ以上にあの人の存在があるんだ。だって目が合うたびに一也さんの目に映っているのは私じゃない。悲しいとか思ってはいけない。だって私は十分すぎるほど幸せをもらった。彼女さんの代わりに。彼女さんがもらうはずだった幸せを奪ったのだ。これは最低なことをした私への罰。
ご飯に行った後、パパラッチがいることには気づいてた。だからわざと仲好さげな写真を撮らせた。これで全部うまくいくって思ってた。それが世に出る前日、突然一也さんが明日あいつと話してくる。と言いだした。え?と驚くともう開放するべきだと思うから。それにお前とのこと、これ以上適当にしたくない。そういわれた。うれしくてうれしくて涙がこぼれた。欲が出た。あの写真がばら撒かれて、この人がそれを事実だと認めてくれたらって。ホントの彼女に私がなれるんじゃないかなって。でも違う。次の日、ネットニュースとかに流れる写真を見ながら彼の帰りを待ったが、いつになっても帰ってこなかった。欲を出したから、ショックを受ける羽目になったのだ。
それからいっぱい考えて、やっと決心ができた。終わりの言葉をあの人からもらおう。少し前に来ていた会って話がしたいというメッセージにやっと返し、受け入れる覚悟を決めた。実際にあって彼の口から彼の思いを聞いて思わず泣きそうになったけど必死に耐えて、わざと写真を撮られたことを教えた。それにはかなり驚いていた。
「さよなら、一也さん。いっぱいありがとう」
「こっちこそ、幸せな時間をほんとにありがと。勝手だけど、お前に会えてよかった」
つん、と鼻に来る。そんな言葉、もらえると思わなかった。もっと怒られる覚悟だってしてた。なのに、なのにほんと、やさしいなぁ。大好きな、ほんとに一也さんだ。
「ばいばい。またいつか」
彼が好きだと言ってくれた笑顔を最後に向けて走ってその場を去る。すべて返します。彼の笑顔も、彼のぬくもりも、彼の思いも全て。だからどうか、幸せになってください。私の大好きな、あの人と。


かわいらしいブーケを空高く投げる。隣にいるこの人は一也さんじゃないけど、同じくらい素敵な人だ。馬鹿な私を知っててもなお、好きだと言ってくれた馬鹿な人。でもきっと幸せになる。この人とならきっと。幸せが帰ってくると思うの。


- ナノ -