No.4 | ナノ

「先生・・・?」

聞き覚えのある声。必死に涙を止めて振り返ろうとしてもなかなか止まらなくてうつむく。傍までやってきた樋野くんはもぐりこんで私の顔をのぞきこむ。ぶっさいくな顔。そういって笑う。あまりにも無邪気な笑みにつられて少しだけ私の口角も上がった。ひどいよ。泣きながら少しだけ笑う。

「あのさ、先生はどうしたいの」
「わたし・・・?」
「そ。お見合いとかそういうの全部抜きで、今までのことも無しで、先生はどうしたいの」
「わたしはっ・・・・でもっ」
「でもじゃないって。手かほんとは先生もわかってるんでしょ?」

あいつのこと好きで好きで仕方なくて。だから怖くて仕方ない。また傷つきたくない。そう思ってんだろ。わかるよ。俺だってすんげぇ振られるのこえーもん。先生が手の届かない人になるのが嫌だもん。けどさ、俺一番大事にしてたことがあるんだ。昔じっちゃんがいっつも口うるさく俺にいってきた言葉なんだけどそんときはうるさいくらいにしこもってなかった言葉なんだけどさ。

「好きな人には笑ってほしい。」
「ひ、のくん・・・」
「なんて、先生からしたらマセガキにしか思えないだろうけどさ」

マセガキでも何でもいい。先生が、なのが笑うならなんだってするよ俺?だって、俺ほんとになのにいっぱい救われたんだ。俺さ、生意気だからって先輩に目つけられて強がってたけど結構答えてる面もあった。けどさ、先生先輩たちに言ってくれたじゃん。そんなくだらないことしてる暇あるなら練習でもしろクソガキ!って。あれ下手したら問題発言って騒がれてもおかしくないくらいだったのに。なのにさ、もう自分のこと後先考えない馬鹿なところほんとに俺にとっては救いだった。生意気な俺の言葉一つ一つに本気でぶつかってきてくれたり、真剣に応援してくれてるのとか、ほんといろいろどんどん好きになっていくことばっかだった。って何俺言ってるかよく分かんなくなってんだけど。

「先生はいい女だよ。あの男が馬鹿だっただけ。だから、臆病になんなよ」
「なに、それ」
「あいつは先生がいい女すぎて自分が惨めに思えたからなんか間違ったんだよ。だからさ、先生はもっと悪い女になっちまえよ。」

初恋の人があんたでよかった。ありがとなの。ちゅっ。というリップ音とともに頬に柔らかな感触があった。なっなっなっ。今のって・・・・。真っ赤になっちゃってかっわい。茶化すようなセリフにもう!と怒るとそのくらい元気な方が先生らしい。と樋野君は笑う。まったく、ほんとにマセガキだよ。でも今までであって来たどんな男よりもいい男だよ。ありがとう樋野君。好きになってくれて、いつも会いに来てくれて、素直な気持ちを伝えてくれて、背中を押してくれて。前にも言ったけど、本当にありがとう。もう一回だけ、頑張ってくる。頬をパンっとたたいて気合を入れる。大丈夫。きっとまだ間に合うよ。

「振られたら今度こそ俺のもんになってね」
「そのときはよろしく」

私の返した言葉を聞くと樋野くんはぽかんと間抜けな顔をする。きっとそんな返しが来ると思っていなかったんだろう。悪女になったらいいっていわれたから。とおどけてみせると樋野君は悪すぎ。と複雑そうな顔をする。

「なの、俺は必ず甲子園に行くよ。絶対あいつよりいい男になって逃がした魚がどんだけ大きかったかって必ず後悔させてやるから。優勝したら、絶対学校やめんなよ」
「楽しみにしてる。私は逃がしてよかった。あんなの手におえないっていわれるような悪女になる!」
「いや、それあんまりうれしくねぇから。」

ふふ。と笑い御幸の去っていった方を見る。いこう。もう一度、あの人の隣に立つために。ばいばい、先生。うん。ありがとう樋野君。そういって私は走り出す。きっとあの人ならこういう時あそこに行くと思う。そこにいなくても電話でも何でもして探し出すよ。でも絶対あそこにいるよね。だって、あそこは私たちの原点なんだから

ねぇ、御幸。今度こそ、一緒に未来をつくろ。4番目のノートの続きにあなたとの未来を綴りたい。

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