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俺の仕事は野球の試合で勝つこと。それだけ。そのために鍛えて、練習して、考える。勝つために。プロ野球選手っつうのは面倒なもんで、芸能人扱いってやつでパパラッチに追い掛け回されたり、ファンに追い掛け回されたり。普通、つまり一般人とは違う生き方をしている。させられている、というほうが正しいか。それは仕方のないことだし、文句はねぇ。それが自分の仕事だからな。だけどたまに、ホントにたまに普通が恋しくなる。そんなときは携帯を使ってあいつを呼び出すんだ。御幸の恋人ってやつを。
久しぶり!へらりと笑う顔は変わらず凡人。ああ、コイツが美人とかじゃなくてよかったな。ますます普通を感じる。そんなことコイツに言えばきっと笑われるだろう。コイツはそう言う奴だ。今目の前でお酒を一気に煽ったのは御幸の恋人であり、俺の友人である女。名前はもな。高校時代とある縁で知り合った女。まぁ、ほんとに普通。普通の鏡ってやつなんじゃね?ヒャッハ!そんなことを考えたら自然に笑みがこぼれた。適当に注文した食べ物が運ばれてくるともなは美味しそうにそれを食う。ふへへ。と嬉しそうに笑いながら。ただの居酒屋だけどな。それで、何かあった。そう話を切り出されてもいつも何もねぇよ。と返す。事実何もない。このイミのない感情を理解していてか、もなはそれ以上聞くことはない。そのあとはいつもの御幸の愚痴から始まる。帰りが遅くなるとすぐに機嫌を悪くし、男生徒の話は厳禁。家事をしてると構えとせがんできて、無視すると引っ付いてきてうっとおしいとか。こいつから聞く御幸を想像するとかなり気持ちわりぃ。少しだけ面白いとも思う。あんな奴が好きな奴の前ではこうも変わるということに。ヒャッハ!それで、お前はどうすんだよ。放置よ放置!構ったら同じこと繰り返すもの。既に体験済みなんだろう。やけに怒った顔をする。どうせそのあと美味しく頂かれたんだろう。いいじゃねぇか。恋人なんだし。そのあとは俺の話。沢村とかチームメイトとか亮さんのこととか。大抵他人が聞けばどうでもいいような話をこいつは真剣に聞いた。やっぱ馬鹿なんだろう。馬鹿なんだな。だけどそれが嬉しくも思う。こいつが馬鹿で良かったな、なんて失礼きわまりねぇこともよく考える。そしてまた次はもなの話。最近通い始めた新しい生徒がなんとも可愛らしいんだとか。最初こそあまりにドジなのでちょっとあれだったがだんだんと可愛らしく見えてきて、ついには周りに過保護と言われるくらい世話を焼いているらしい。皿持っていくのもほぼもなが運び、その生徒には一枚の皿を運ばせるらしい。それでもたまにコケてしまうのだからすごい。なんて言ってるが俺からしたら呆れるの一言に尽きる。どうやったらそんなことできるんだよ。狙ってんのか。あ、いや、そういうことを本気でできるやつ俺は知ってる。あいつも、何もないところでコケるのが得意だったな。それで今度そのこと遊ぶ約束しちゃったんだ。なんて言い出したことには本気で驚いた。なんと話せばその女は同い年だったらしい。その後意外と意気投合して連絡先まで交換して、ってマジかよ。そんなやつと出かけたらすんげぇ大変なことになんぞ。経験者だからわかる。よそ見一つできねぇぞ。それは。
だがそんなことを言ってもこいつはその女と出かけるのをやめたりしないだろう。あのうるさい沢村と出かけるのも好きだからな。どんだけ迷惑がかかろうが楽しいと言うんだからすげぇよ。俺にはできねぇ。すぐシメる。新しく友達ができたのが嬉しいのかそのあとももなはその女のことをペラペラと語る語る。仕事の関係で最近一人暮らしを始めることになったらしいのだが知らない土地、頼る人もいない。そんなか不安を抱えながらせめて料理くらいできるようにならなければともなのいる教室に通うことにしたらしい。何を作れるのかと聞くとカレーライスだけは得意だとか。勉強は得意らしく就職はある程度いいところをいっているらしい。でもドジだからいろいろ迷惑をかけて申し訳ないとか。いろいろグダグダと悩んでいたところ、もなが余りにも親のように自分のことを心配してくれたのが嬉しくて途中で泣き出したらしい。それから友情が深まって先生と生徒という関係だけではなく本当に友達になったらしい。マンション選びも一緒にして、つい最近本格的にこっちで住むようになり、会社も自宅から通っているらしい。そんな女のもとにもなは週一で料理教室以外で料理を教えに行くのだとか。お前ほんとに過保護っつうか馬鹿だよな。と俺が言うともなはかわいいは正義。と意味不明なことを言った。この時俺は本当にこいつは馬鹿なんだと思った





馬鹿な女


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