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先生はきっと知ってたんだろう。洋一くんの気持ちを。だからこそ応援してくれたんだと思う。なのに私は臆病だから逃げてしまった。その結果が今だ。自業自得だ。自分が悪いのにそれでも涙は出てきた。悲しくて苦しくてぼろぼろと泣いてしまう。こんな私にあんなに素敵な事を言ってくれる洋一くんのことがやっぱり今でも好きだ。改めてそう思った。
先生の好意で自分の家で行われる料理教室。先生と私だけの空間はどこか気まずかった。きっと洋一くんはあの時のことも報告してるんだろうな。先生はそれを聞いてどう思っただろうか。情けない私に流石に呆れただろうか。お鍋をグツグツ煮込みはじめると先生はちょっと休憩しようか。といって持参したチョコレートを使ってホットチョコレートを作ってくれた。ホワイトチョコでできたそれはとても甘くて、でも優しい甘さで、ほっこりなるような飲み物だった。
「ゆゆちゃんに謝っておくべきことがある。勝手に私はゆゆちゃんの彼氏のことをあいつに話したわ。言い訳はしない。けど理由とするならゆゆちゃんに知って欲しかったのよ。倉持の気持ちを」
「聞き、ました・・・。家までいいに来てくれたので」
「そっか・・・・。じゃぁいいや」
「へ?」
私が驚くと責められるとでも思ったの?と聞かれて頷くと先生はくすくすと笑いそんなことしないわよ。そんなに私怖いかな。といって困った顔をされる。怖いんじゃなくて、洋一くんのことを大事に思ってるから。大切な人のことなら本気で怒る人だと思うから。きっと責められると思った。
わたしさ、ホントに倉持に幸せになって欲しいんだよ。いつも迷惑ばかりかけてるから、なかなかそのせいで彼女もどき作っても長く続かないんじゃないかって思っててさ。そしたら実は本気で好きな人が別にいますだよ?もうこれは!っておもっちゃったんだよね。しかも両片想いってわかったから余計にくっつけくっつけ!って思っちゃって。いらないことをしちゃったわ。私がもっとうまくできないから、不器用な人間だから、ちゃんとふたりの間を取り持てなかった。
「ほんとに、ごめんなさい」
そういって先生は深く頭を下げる。やめてください!と慌てて止めに入る。そんなこと望んでない。それに一番の原因は私が臆病だったからだ。私が臆病者だったから洋一くんの勇気にも応えれなかったんだ。あの日、ほんとは・・・・。私っ・・・
「先生、私怖いんです。いつか洋一くんにいらないって言われるのが」
「へ?」
「昔、私と洋一くんずっと一緒にいたんです。こんな私を、洋一くんはずっと見捨てなかったんです。ドジで間抜けな私を洋一くんだけはしょうがねーな。っていつも助けてくれてて・・・」
どんな友達よりも大切だった。洋一くんにとっても私は特別だと思ってた。なのに突然、それが否定された。私は捨てられた。野球に負けて、ひとりぼっちでおいていかれてしまった。そんなの被害妄想だってわかってる。けど、けどあの時・・・・せめて嘘でもいいから、一緒にこいってただ一言、言って欲しかった。わがままだけど、その一言がどうしても欲しかったの。
先生はふぅ。と息を一息吐き出すとゆゆちゃん。と私の名前を呼ぶ。顔を上げて視線を合わせると先生はとても切なげに微笑んだ。わたしもね、怖くてたまらないんだ。え?だってね、私もいつか捨てられるから。御幸に。あの人にとっての一番って私じゃないんだよね。私は一生かかったってあの人の一番にはなれないの。だって、あの人野球以上に何かを愛せないのよ。今のあの人を生み出したのは野球だから。いうなら野球はあの人の母親のようなもの。だからそんなものを、裏切ることなんてできないの。いつか野球と私が天秤で推し量られたとき、私は捨てられる。そのいつかが来るのがホントは死ぬほど怖い。
「けどね、それ以上に一緒にいたいの。私、もうあの人なしじゃ生きられないから」
もし、ゆゆちゃんと倉持が本当に運命の相手だとしたらきっともう一度なにか訪れるよ。ふたりの間に。必ず何かが起こるから。だから、そのときこそ怖がらずにまっすぐ倉持にぶつかってよ。もし倉持がゆゆちゃん泣かせたら私が一発殴りに行くからさ。怖がらないで。怖がったら、大事なものをなくしてしまうから。
先生はそれだけ言うとそろそろ煮込めたかしら。といって席を立ち上がる。そしてそれ以降洋一くんの話はしなくなった。


無くしたくなくて


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