な
21
突然携帯の画面に洋一くんの名前が浮かび上がる。驚きながらもそっと通話ボタンを押し、もしもし。と声をかけるとよぉ。と声が聞こえてくる。あれ?なんだかいつもとちょっと違う?なにか、重たいものを感じたけど、気のせいかな?お前いま家いる?うん。いるよ。じゃぁさ、玄関に来てくんね?へ?あ。電話切んなよ。わ、わかった。
言われた通り玄関まで来ると突然ドアがこんこんと音を鳴らす。誰かお客さん?と思っているといるか?と聞かれた。携帯と、扉の向こうから。洋一くん・・・?声をかけるとおう。と返事が返ってくる。なんだ、来てたんだ。そういってドアを開けようとドアノブに手を伸ばす。けど開けなくていい。の言葉を聞いてその手を止めた。やっぱり、様子がおかしい。何かあったのだろうか。もう一度洋一くんと名前を呼ぶとおう。と返事が返ってくる。何かあったの?そう声をかけても返事がない。ほんとに、何があったの。心配だけどきっとこの扉を開ければ洋一くんはすべてを隠してしまうだろう。何となくそう思ってドアを開けれなかった
「もなから、お前に恋人が出来たって聞いた」
その言葉を聞いて息を呑む。まさか本人に言われるなんて思ってもみなかった。なんとなくそういうことする人じゃないって思ってた。裏切られたような気持ちになる。別に先生は悪いことをしてないのに。ただありのままのことを言っただけなのに
「ほんとはもなもお前本人から言うべきだと思ってんだけどさ、俺の気持ちも知ってるから・・・。いろいろ悩んで、あいつ酒すんげぇ飲んで泥酔してからいいに来たんだよ。」
「洋一君の気持ち・・・・?」
なんのことだろう。先生は何を知ってるのだろう。何を私は知らないのだろうか。昔は洋一くんのことを一番よくわかっていた。少なくとも友人の中で一番理解していたのは私だと思ってた。けど、今はやっぱり・・・・違うんだな・・・。ズキっと胸が痛む。涙が出そうだった。苦しいな。やっぱり。好きだよ、洋一くん・・・・
「子供の頃からお前はずっと一緒で、俺はその先もずっとお前と離れることはねぇと思ってた。」
私もだよ。なんて言えずに黙っていると洋一くんは一人で語りだす。私はそれを黙って聞いていた。昔あった出来事。私のお間抜けな話。どれも懐かしい思い出たち。どれも愛おしい時間。愛おしい記憶だ。戻りたいと強く願った過去だ・・・・。そしてもう二度と戻れない過去だ。
「なぁ、ゆゆ・・・・・」
好きだよ。電話と扉の向こうからの声がかぶる。一瞬何を言われたのかさっぱりわからなかった。すき?すきって・・・・・?私のことを・・・・??驚いて声が出せないでいると洋一くんはそれに構わず言葉を続ける。
「昔から、あの頃から変わらずずっとお前が好きだ。忘れたことなんか一度もねーよ」
うそ・・・・。洋一くんはずっと、覚えてくれたの?あのときのことも、わたしのこともずっと・・・。覚えててくれたの?ずっと一緒にいるって約束、破ったりして悪かった。今更俺が何を言っても迷惑にしかなんねーけど、最後に言わせて欲しい。
「お前のおかげで俺は野球を諦めずに、ここまでこれた。お前の言葉がいつだって支えてくれた。ありがとな」
「よう、・・・いちくん・・・・」
「返事はいらねーよ。お前は幸せになれ、絶対に。お前を泣かせるような奴だったら俺は容赦はしねぇ。たとえお前に嫌われても、引き離す。そう、彼氏にいっとけよ」
じゃぁな。その言葉を聞いて慌ててドアを開けると既に洋一くんはいなかった。ただ階段を勢いよく降りていく足音が鳴り響く。洋一くんっ。もう一度その名を呼んでも彼は返事をくれない。必死に追いかけようとしても追いつかない。いつの間にか洋一くんは駐車場まで降りていて、バイクにまたがって私の方を見ていた。そして悲しげにほ微笑むと最後に昔みたいにニカッて笑ってなんかあったら連絡してこいよ。お前傷つける奴なら誰であろうとぶん殴ってやるからな。と大きな声で言ってバイクを爽快に走らせ、姿を消した
ポロリと涙が目からこぼれ落ちる。ねぇ、おねがい。行かないで・・・・
言えなかったよヒーロー
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