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「え・・・」
私の言葉に先生は目を見開く。驚きすぎて固まっているのかほんとに動かない。いま、なんて。そう聞かれたのでためらいながらももう一度同じ言葉を繰り返した
「お付き合いを・・・することになりました」
その言葉を聞くと先生は口を大きく開いたけどすぐに閉ざして俯いた。倉持のこと、好きだったんじゃないの?と聞かれわたしも俯いてしまう。すき、でした。嘘つき。え?でした、じゃなくて今だって好きじゃない。私が名前出しただけで反応見せるくらいには。なのになんで、何があったの?仕事のため?断れない相手とか?そんなんじゃ、ありません。私がそう返すと先生は顔を上げて苦しそうに顔を歪めた。その目を目が合うだけでわたしも泣きそうになる。先生には、わからないと思います。この気持ち。怖くて仕方がないんです。洋一くんにこの気持ちがバレて、また離れてしまうことがっ・・・怖くてたまらないんです。中学生の時、わたしほんとに洋一くんと離れることになるなんて夢にも思ってなくて、突然言われて、ほんとは行かないでって言いたかった。行ってしまいそうだった。いっぱい考えたら知恵熱出しちゃって迷惑かけちゃって、その時思ったんです。不謹慎だけど、このままずっと熱出してたら洋一くんどこにもいかないでくれるかなって。こんな最低なこと、思っちゃったんですわたし。そんなこと、洋一くんにバレたら嫌われちゃう。嫌われたくない、洋一くんのなかではずっと綺麗なままでいたい。もう、離れたくないっ。
全部本音だったあって間もない人に向かって何言ってるんだろうって思った。でも口からはほんとに思ってること全部ぼろぼろと出ていく。汚い自分が、表面に出てくる。ああ、先生にも嫌われちゃうかも知れない。せっかくこっちにきて初めて出来た友達だったのに。ぼろぼろと本音と汚い自分と一緒に涙まで出てきた。外でこんなふうにならなくてよかった。でもここ先生の家だ。迷惑かけちゃって、ほんとに・・・どうしようもないな。わたし・・・
先生はゆっくりと椅子から立ち上がってどこかに行ってしまう。呆れてしまったのだろうか。それもそうか。どんどんマイナス思考になっていく。ああ、もう泣き止まないと。ダメだってわかってるのに。必死に涙を拭っていると両手を誰かに抑えられた。驚いて顔を上げると優しく微笑んでる先生がいた。先生はそっと私にぬるま湯に付けられたタオルを顔に当ててくれる。そしてそのままぎゅっと抱きしめてくれた。ほんとに、お母さんみたいだ。ホッと安心するとまた涙が出てきて大きな声を上げて泣いてしまった。苦しいの?苦しい。悲しいの?悲しい。怖いの?怖い。素直に出てくる言葉を先生は笑うことも咎めることもせずただ受け入れてくれた。
落ち着いてくると先生は私の前の前にコトン。と暖かなココアをおいてくれる。どうぞ。といわれて一口飲むと口の中にはとても温かくて優しい味が広がる。あれ?これココア??私が不思議そうな顔をするとホットチョコレートよ。ココアはこの一種に当たるものね。と言われる。チョコレートと生クリームとでできるやつにちょっとアレンジしたものよ。と作り方まで教えてもらった。おいしい。と素直な感想をいうと嬉しそうに先生は微笑む。ありがとう。といって同じものを一口飲んで私と同じようにおいしい。とつぶやいた。
「この話すると、ゆゆちゃんに幻滅されるかなって思って言いたくなかったんだけど参考になると思うから話すね」
幻滅?先生に?不思議そうな顔をすると先生は困ったような顔をしてゆっくりと話しだした。私と彼氏さん・・えっと御幸はね、高校生の時甲子園でバイトと出場選手って関係で出会ったの。栄純くんが迷子になっててそれをバイトの私が送り届けたって話。その頃御幸には好きな人がいてね、でもその人にも好きな人がいて叶わない恋をしてたんだ。そんな御幸と栄純くんの二人とメル友になって、たまにメールしたりの関係から大人になって御幸と直接会うことになった。最初なんか御幸って最低な男でね。もうほんとクソ男って感じだったの。わたし腹が立っちゃって喧嘩しちゃってさ。まぁ、御幸のおかげで仲直りしたんだけど。それから御幸と何度か会うようになっていろいろ話して言い合って、ほんとに楽しかったの。そんなあるとき御幸の弱さを知って、それが昔の自分とかぶって見えて思わず手を伸ばして一緒に落ちてみることにしたんだ。最初はきっと母性本能とか、そういうのだった。けどね、ある日唐突に思ったの。御幸はよく遊んでた。彼女なんてよく変わる。たくさん捨てられてる女の子を見てきた。でもわたしはどんだけ自分の素直な言葉を言って喧嘩することになっても捨てられなかったの。どうして私は御幸と一緒にいるんだろ?どうして御幸は私と一緒にいるんだろって。その時初めて見えてきた自分の思いと御幸が自分に求めてると思っていたものに挟まれて私は自分の感情に蓋をした。だって、だってね
「御幸に嫌われたくない、離れたくない。そう思ってしまったの」
「え・・・・」
「私もね、その考えのせいで一度間違いを犯した。だからゆゆちゃんには同じ思いをして欲しくないの」
もう一度よく考えて欲しい。そういった先生はほんとに悲しそうな顔をしていた


誰も完璧じゃないのさ


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