16

「お前マジで覚えてろよ」
(え〜?私のおかげでいい思いできたんだよ?良かったじゃんかママ)
じゃ、そろそろ生徒来るから切るね。そういってあいつは電話を切る。ったく、ほんとに御幸に似てきやがって。まぁ、笑ってるだけましか。それから一応ゆゆに最近恒例になったメールを送り携帯をしまう。御幸がニヤニヤすてるが無視だ。
少しずつ昔のような関係に戻ってきてもながいなくても連絡を取り合ったりするようになって、二人で合うこともある。そんなことで満足してたら先に進めないのはわかってても、この関係を壊すのが怖いと思った。こんなんじゃダメだ。こんなんじゃ、あの頃と同じことになる。今の関係がいつまでも続かないってことは一番俺自身が分かってんだろ。つか御幸に散々ヘタレとか言ってくせに自分どうなんだよな。今ならあいつがなんであんなに臆病になってたのかもよくわかる。失ってしまうことを考えたらこんなにも怖いのか。
「洋一くんなにかあった?」
「は?」
「えっと、間違ってたらごめんね。なにか元気なさそうに見えたから」
そんなにわかりやすかったか。いや今日一日たくさんのやつにあっても誰も突っ込まなかった。沢村すら何も言わなかったんだ。ほんとに気づかれてないはずだ。なのに、なんでお前だけはわかんだよ。俺が返事をせずに黙っているとあ、聞いちゃいけないことだったかな。ごめんね。と申し訳なさそうに謝られた。違う。といってゆゆの手をひいて自分の腕の中に閉じ込めた。突然のことに驚いている友夢にお構いなく俺はタダ抱きついた。あの頃当たり前だったことが突然当たり前じゃなくなる。でもなにかアクションを起こせば失うかも知れない。その板挟みに挟まれて俺は何もできない。何もしなかったら同じことしか繰り返さねーのに。
「だ、大丈夫洋一くん?あのえっと、そうだ!先生!先生呼ぼうか?」
「あいつ呼ばなくていいから。ちょっとだけ、このままさせてくれね?」
俺が少し弱い声を出せばゆゆは優しく抱きしめ返し頷く。そうなると分かってやってんだから俺も案外策士なのか。御幸と同じというのにはかなり複雑だ。けどこれを独り占めできるというのはやっぱり悪くない。もう少しだけ、もう少しだけ勇気をくれ。ちゃんと覚悟だって決めるし、アクションだって起こしてやる。けど、それにはまだ勇気がたんなくて、怖くて仕方ねぇ。
「大丈夫だよ。洋一くん」
何も怖くないよ。大丈夫だよ。何かわかってないくせに俺が怯えてることにだけは気づいてそんな甘ったるく生ぬるい言葉が降り下りてくる。まったく、侮れないやつだ。いつも抜けてるくせに、こんな時は人一倍頼りがいがある。
「おれさ」
「・・・うん」
「お前に出会えてよかったわ」
素直な言葉がそのまま出てきた。今だけはまだ勇気が溜まってないけど、素直になれた。



素直になるには勇気が足らないけど

BACKNEXT

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -