11

カランコロンカランコロン。下駄の音が響く。心臓の音がばくばく響く。ああ、もうおかしくなりそうだ。まさかまた洋一くんにこうやって手を引いてもらえる日が来るなんてあの別れた日は想像もしていなかった。忘れないで。とはいったものの、彼にとって私は出会う人の中のただのひとり。私だけが覚えてたら、それでいい。そう思ってたのに・・・。洋一くんはどこまでも優しいな。うぬぼれかもしれないけど、プロになって初めての試合でのホームラン。昔私に洋一くんが約束してくれたことだった。それを見たときほんとに嬉しかったの。彼がプロになれたことももちろん嬉しい。けどそれ以上に、彼が野球を続けていてくれたこと、そしてあの約束を守ってくれたこと。それが嬉しかった。私と一緒に過ごした時間はムダなんかじゃないって言われてるみたいで。
「ゆゆ腹減ってるか?」
「え、あ、うん。お腹すいてる」
「じゃぁ、ちょっとそこの休憩所に座ってろ。」
一歩も動くなよ。誰に声かけられても無視しろよ。といわれ洋一くんは走って去っていく。一人ぼっちになると少しさみしいな。今までずっとこんな感じだったのに。洋一くんがいなくなってしまったあの時の感覚がもどるようだった。あの孤独感はきっと忘れられない。また、あんなふうになっちゃうのかな。だって、彼は別世界の人だもん。私みたいな普通の人とは程遠い人なんだ。
「何難しい顔してんだよ」
声が聞こえて顔を上げると怖い顔をした洋一君がいる。ううん、これはただ心配してるだけ。ほかの人には怖いように見えても私はもう、ずっと前から彼の優しさを知ってるから。怖くなんてない。ただ、ひどく苦しい。この感情が、邪魔になってくる。この感情がバレたらきっと、一緒にはいられなくなる。そう思ったら怖くて口に出すことなんてできなかった。もともと、あの時だって最後だから。そう思っていったんだ。洋一くんが手が出せない時に。狙っていったんだ。そんなずるいわたしなんか、真っ直ぐで素直な彼には似合わない。もとから不釣り合いなのだ。そう考えると泣きそうになってしまう
ぽんぽん。と頭を優しく撫でられる。顔を上げると困ったような顔をした洋一君がいた。いつもいつも洋一くんは私の気持ちを分かってくれる。そしてこうやって慰めてくれる。私のことをいつも・・・・。見守っててくれる。ああ、もうほんとに泣いちゃうよ。かっこよすぎだよ。
ポロポロと涙を流す私に洋一くんは何も言わなかった。ただ優しく撫でてギュッて抱きしめてくれた。暖かくて気持ちよくて無意識のうちに擦り寄って。背中に腕を回す。ずっとずっとこの時間が続けばいいのに。これ以上なんて望まないから。ただずっとこのまま居させて欲しい。ねぇ、好きだよ洋一くん。でも絶対にこの気持ちは言わないからさ。あの時みたいに、どっかいっちゃったりしないでよ。この関係のままでいいからもう、バイバイなんて言わないでよ。洋一くんにとって私ってなんだったのかな。あのとき私はずっと洋一くんといれるんだって信じて疑わなかったよ。でも、そんな風に思っていた関係だったのにバイバイのときは来たんだよ。ねぇ、このままいつまでそばにいられるの?


ねぇ、好きって言えないんだけど

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