気合い
05

それから次の日も俺は瑠鳴に積極的に話しかけた。度々悲しそうな顔をされたけどいい。瑠鳴はそれから俺とはちゃんと話すようになった。懲りずにする告白もまっすぐ断ってきた。それでも俺はくり返しそれを続ける。いつの間にか、6月になっていた。いつものように放課後部活をしていると御幸。と哲さんに呼ばれる。なんですか?と聞けば瑠鳴を探してきてほしいと頼まれた。投手の力がどのくらい通じるか見てみたい。なんて言われても難しい話だ。素直に頼んできてくれるとは思えない。多少強引でもいいっすか?と聞くと怪我はさせるなよ。と言われた。つまりオッケーってわけだ。分かりました。といって俺は走って瑠鳴を探す。今回は結構簡単に見つけられた。彼女が何か言う前に無理やり担ぎ上げて走ってグラウンドまで運ぶ。暴れられたけど全然余裕だ。とか余裕ぶっていたせいか思いっきり俺の大事なところを蹴り上げられる。あまりの痛さに思わずしゃがみこむ。その間に哲さんがきて彼女とアイスで交渉して投手の力試しが始まる。つかまだ俺痛いんですけど。彼女は容赦ないバッティングで次々と投手のボールを遠くまで打ち飛ばす。たまには地面に叩きつけて上手く抜ける。かと思ったが亮さんと倉持の二遊間はそれをうまいことキャッチする。さすが。つかまだいてぇ。ノリまでにも大人げない打ち方をするので途中でクリス先輩が瑠鳴に小言を言うとむすっと拗ねた顔をする。慌ててノリも大丈夫ですとか言ってるけどこいつ調子に乗ったら本気でホームランとか狙いだすぞ。彼女いわく、テニス部の経験と野生の勘でそこまで打てるというのだがそれだけでここまで打てるはずがない。きっと、哲さんの事を思って毎日すぶりをしていたのだろう。その後降谷がマウンドに立った。そしてボールを思いっきり投げる。負けず嫌いな降谷はコントロールも考えずに自分の力を振り絞って思いっきり球を投げ込んだ。そのボールは彼女の顔めがけて飛んでいく。咄嗟にそばにいた哲さんが彼女を自分の方に抱き寄せたおかげで当たることはなかった。だけどそのギリギリの瞬間をみた俺たちは肝が冷えた。息することすら忘れてしまうくらい、本気で焦っていた。さすがの彼女も怖がったんじゃ、と思い近づいていけど俯いていて顔がよく見えない。怪我はないか瑠鳴。と哲さんが声をかけると彼女は顔を上げた。そしてその目にはとてつもない怒りを宿していた。
「怪我とかの問題じゃないでしょ。なによ今の球」
誰あいつ。と投手の名前を哲さんに聞く。哲さんが素直に降谷の名前を教えると彼女は大きな声で「降谷!」と叫ぶ。もちろん降谷は驚いた顔をしていた
「さっさとマウンドから降りて。あんたに投手をやる資格はない」
はっきりと瑠鳴がそう言い切ると周りは驚いた顔をする。宮内先輩なんかは「やめろ馬鹿」と止めてくるが誰かが言わなければいけないことだ。けどそこまで直球で言っちゃうですか。流石の俺でも言わない。
「あなた、とても速い球を投げれるようだけど全くコントロールができてない。それをもし相手の選手に当てたらどうするの。打ち所が悪ければその人の人生に関わるのよ!」
だけど彼女の言っていることに何一つ間違ったことはない。そして彼女がここまで強く言うのはちゃんと理由があった。彼女も事故で自分のやっていたスポーツを辞めざる得なくなった人間だったんだ。そりゃ怒りも湧くだろう。
「だいたい速くたって、入ってなければ意味ないのよ!相手に脅しになるかもしれないけど、それは少しの間だけ。すぐに慣れてくるわよ!」
けどこれ以上は言いすぎ。そう思って止めに入ろうとするがその前に哲さんがまだ文句を言おうとする瑠鳴の口を手で塞ぐ。その瞬間彼女が悲しげに顔を歪めた。一気に気分を悪くして瑠鳴はヘルメットを外す。もうやるつもりはない。それはそういう意思を表していた。ちょ、ちょっと待ってくれよ!まだ俺のたま打ってねぇじゃん!!と沢村が空気も読まず止めに入ろうとすると彼女はたまった怒りをぶつけるかのように大きな声で叫んだ
「あんたのたまなんてたかがしれてるのよ一年坊主!!」
大人気ないっすよ。なんて言う前に俺は思わず笑ってしまった

大人げない先輩

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