君に
04

先輩たちと瑠鳴さんの話し合いの内容はわからなかった。なぜなら先輩たちだけで場所を移動して、どこかで話していたから。盗み聞きすることひとつできなかった。瑠鳴に大丈夫か?と次の日の放課後聞けば前みたいに冷めた目をして無視された。また、最初に戻ってしまった。そう思って大きく落ち込んでいると3年とは普通に話しただけだから。気にしなくていいよ。と言われた。え。と驚いていると瑠鳴は困ったような顔をして俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。御幸はさ、いつも私の聞かれたくないことは聞かないよね。ほんと、そういうところに救われてたよ。倉持とも、気まづくならないように気配ってくれたし。ほんと、あんたには感謝してるよ。ありがとう。久々に見た彼女の本当の笑顔をみて思わず顔に熱が集まる。ああ、なんだよこれ。俺らしくもねぇ。余裕ぶった態度がひとつもできねぇじゃん。ああ、やっぱりあんたが好きなんだよ。だからさ、そんな顔するなよ。俺、ほんとにこれ以上惚れさせられた、二度と人を好きになれなくなる
「だから敢えて言うよ。もう私のことを好きでいるのやめなよ。報われないよ、その思い」
いきなりそう突き放された。俺は驚いて目を見開く。俺の目には真剣な顔をした彼女が映るだけだった。なんで、なんで今なんだよ。
「私は哲が好きよ。ずっと昔から、あの人だけが好き。ぶれることもなく。バカみたいに好きなの。昨日3年生に言われたわ、絶対に甲子園に連れていくって。そしたら哲が話を聞いて欲しいって。私馬鹿じゃないの。哲が何を言うとしてるのかわかってる」
「そんな言い方されたら、俺、先輩甲子園に連れて行きたくなくなるんだけど」
「大丈夫。だって、御幸も哲も一番は野球だもの。だから勝ち負けに私情は入れない。全力で勝ちに行くよ。絶対」
そんだけ御幸のことは信じてるから。そういって彼女は立ち上がり教室を去っていった。こんな終わり方あるかよ。ずるいだろ。そんなこと言われたら俺なんて言えばいいんだよ。勝っても負けてもどっちにしても後悔しそうじゃんか。ああ、そうか。彼女は信じたんだ。勝っても負けても後悔するなら、俺は必ず勝って後悔することを選ぶって。俺の性格をよくわかっていたからこそ、そうしたんだ。そこまで俺のこと、わかってくれてんのかよ。こんなことがたまらなく嬉しいなんて、ほんと俺も馬鹿だよな。でもさ、ほんとにどうしようもねぇほど恋焦がれちまってんだよ。たぶんもう引き返せねぇ。きっとあんた以上に好きな人なんてできないんだよ。それが瑠鳴にとって迷惑なのもわかってる。けど、せめてこの学校にいる間、哲さんと瑠鳴がくっつくまでの間、その間だけは想い続けさせてくれよ。そうじゃねぇとほんとに俺、何もできなくなりそうだ。あんなに大事な野球でさえ、嫌いになってしまいそうで怖い。
「好きだよ、瑠鳴・・・・」
好きなんだよ。ただただ好きなんだよ。それの何がダメなの?やめろって言うなら、この感情の消し方を教えろよ。お前が俺に作り出したこの感情の捨てる場所を教えてくれよ。こんな大きなもの、そんじょそこらには捨てれねぇんだわ。
「好きだっ・・・」
俺は知らなかった。この時彼女が廊下に立って、俺のこの言葉を聞いていたことを。


教室、廊下、グラウンド。

[ 6/25 ]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -