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瑠鳴先輩!初めて会ったとき、俺はその人をそう呼んでいた。なんだ天才捕手さん。なんてちょっと茶化すような言い方をして彼女はいひひ。と無邪気に笑う。そんなところも好きだった。好きです。最初から俺はこの人にアタックし続けていた。最初こそ赤面していた彼女もあまりにもしつこい俺の告白を冗談だと受け止めたらしく。笑って流すようになった。それでもよかった。そのときはまだ知らなかったから。彼女の中には別の人がずっと昔からいることを。
彼女は先輩とも仲良しだった。特に同学年の2年の野球部の人はみんな瑠鳴さんを知っているらしくよく話しかけているのを見かけた。彼女はテニス部のエースということも知ってる。1年の頃から賞を総ナメしていると話題だった。でも彼女はよく野球部の練習を見に来た。自分の部活がないときは毎日。たまに野球部の練習に交じることもあった。彼女はテニス部ということもあり、バッティングの才能があったから。投手陣は彼女を相手にどうやって打ち取るか、守備陣はどこに打たれるかわからないたまをどうカバーするか、そういう練習をしていた。チームの選手とは違い、癖も掴めない相手。それはまさしく本番と同じ設定だった。だからこそ怖くもあり、厳しい練習とも言える。
「瑠鳴先輩さすがっすね。かっこよすぎて惚れ直します」
「ありがと御幸。でもまだまだだよ。男の子はもっと力あるたまで打ち返すの。全然、全然足らないよ」
いつもいつも彼女はそう言っていた。確かにそうだけどそれはどうしようもないことだ。男女の力の差は埋められるはずがない。なのになんでそんな気にするんだ。別に野球部の部員ってわけじゃねぇのに。そのときは不思議で仕方が無かった。それがわかったのはその少しした頃。部活が終わったあとでさえバッドを振り回している哲さんのそばで丸まって座っている彼女を見つけたとき。驚いて思わずなんでここに?!と叫ぶとほかの先輩が微笑ましそうに彼女を見て一途なんだよ。とだけ言う。俺はそれほど鈍感じゃないからわかった。そしてそのおかげですべてがつながった。どうして彼女がこんなにも野球部を気にかけているのかも何もかも。野球が好きだからとかそんなんじゃない。彼女は、哲さんのことが好きだったんだ。その次の日に知った。彼女は哲さんの幼馴染で、ずっといっしょに暮らしてきた家族のような存在だそうだ。哲さんは彼女の気持ちを知っていた。天然な人だけど、哲さん自身も彼女のことを好きだったから知っていたらしい。だけど高校は野球に捧げると決めたから彼女はつくらないと決めていたらしい。そして、彼女はそれを聞いても受け入れて待ってるといったらしい。野球部の先輩たちのなかではすでに公認の仲。監督たちすらも知っていたらしい。なのに俺は知らなかった。こんなだっさい失恋あんのかよ。生まれて初めて、本気になれたのに。なんだよそれ。うまくいかなきゃいいのに。なんて最低なことさえ考えた。あー、何考えてんだ俺。情けねぇ。大会だって近い、今は集中しなきゃなんねぇんだ。あの人のことは、一度忘れよう。大丈夫、まだ、戻れる
夏の最後の大会。甲子園への切符をかけた戦いが始まる。夏休みになって練習もより厳しくなり、先輩たちの目の色も変わる。途中、クリス先輩の故障があってチームに大きな影響が出た。そしてその代わりとしておれが捕手をすることになった。その頃には必死ですっかり彼女のことなんて忘れていた。思い出したのは夢の舞台への道が閉ざされ、夏が終わったあと。学校中に広まる噂で聞いた。俺はそれを聞いた瞬間急いで教室を飛び出し職員室に駆け込んだ。そして彼女の所属していたテニス部の顧問を見つけすぐに確認を取ると噂は事実なのだとわかった。
「うそ、だろ・・・・」
まさか、こんなことになるんて。たしかにうまくいかなきゃいいのになんては思った。けど、だからって・・・なんで・・・。それから半年以上、彼女は学校に来なかった。そして次に見た彼女はすっかり変わっていた。長かった髪は随分と短くなり、あんなに無邪気な顔をしていた彼女はどこにもいなかった。冷たく、するどい。そんな目をした彼女が、俺と同じ教室にいた。高校で2回目の春を迎えたときのことだった



2回目の春

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