さよなら
もう一度やってきた女の先輩たちに今度は瑠鳴は真っ向から向き合った。気になったから近くまで付き添って話が終わるのを待つ。そしたらボロ泣きの女の先輩たちが出てきてその後ゆっくりと俺は瑠鳴に近づく。振り返った瑠鳴は俺に笑みを見せる。その顔を見れば話がちゃんとできたのだと直ぐにわかった。それから瑠鳴は少しずつ変わった。まず人とのコミュニケーションをちゃんと取るようになった。今まで冷たい態度だったのを改めて、一応クラスの人間とは話せる程度になった。もともと優しい人だったから直ぐに溶け込んだ。先輩たちの前でもよく笑うようになった。そして哲さんのことを昔のようにてっちゃんと呼ぶようになった。練習にも積極的になって、でもあいからわず落合コーチには嫌悪感を抱いていた。準決勝で俺の怪我に一番に気づいてすぐに俺に病院に行くように言う。けど俺が行かないと言い続けると瑠鳴は監督に告げ口をすると言い出した。そこでカッっとなった俺が思わず来年去っていこうって考えてる奴が口出しするな。なんてどなっちまった。もちろん瑠鳴は驚いていた。知っているなんて思ってもみなかったんだろう。でも俺は、お前にやめて欲しくない。お前を甲子園に連れていくのは俺たちだ。はっきりそう言い切って背を向けた。それ以来瑠鳴は俺と顔を合わせるたびに気まずそうな顔をしていた。秋の大会が終わって、俺たちは冬の合宿が始まる。そのとき瑠鳴は全員の前で転校を取り下げることを発表した。俺たちはそのことに歓喜の声を上げて喜んだ。瑠鳴を囲ってむちゃくちゃになでまくって。背中叩いて。瑠鳴もそんなに喜ばれるとは思ってなかったみたいですげぇ恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんでた。
あれから瑠鳴と哲さんの進展はない。けど、だんだんと距離が縮まってきてる気はしてた。ただどちらも勇気が出せず、一歩を踏み出せない。そんな感じだった。背中を押すなんて嫌だけど、それでもやっぱり瑠鳴が笑ってて欲しいって思うのは事実。だからバレンタイン。一肌脱いでやることにした。バレンタイン当日。瑠鳴は部員全員にチョコを配った。マネージャーたちが用意したのとは別に。そして俺のは今までのお礼として特別といって少しだけみんなより多く入ってるのをくれた。俺はそのまま気恥ずかしそうな顔をして去っていこうとする瑠鳴の手を掴んで俺の作ったチョコを渡す。驚いた顔をした瑠鳴の手を強く引いて頬にくちづけた。ふんわり触れた柔らかい頬。驚いた顔をして俺を見つめる瑠鳴。ごめんな。俺が小さくそうつぶやくと瑠鳴はえ?と不思議そうな顔をする。ちらりと視線を横にするとそこには哲さんがいる。俺は知ってたから驚かない。だけど瑠鳴は違う。てっちゃん・・・。驚いた顔をして動揺する彼女の背中をぽんと押した。そのまま哲さんの腕に収まり哲さんは彼女をギュッと抱きしめる。いい加減、素直になったほうがいいと思いますよ。俺はそう言ってそのまま去っていった。
なのに瑠鳴と哲さんは結局進展しなかったと瑠鳴から直接報告を受けると悔しい気持ちでいっぱいになる。好きなくせに、なんでそう言ってやらないんだよ。俺が拳を強く握ると瑠鳴が俺の手に自分の手を重ねてきた。あのね。私もう辞める。え?待つのはもうやめることにしたの。今まで散々いい子に待ってたの。だから、最後くらいわがままになってみようと思うの。そう言って瑠鳴はにっとまた子供のような無邪気な笑みを見せる。御幸がここまでしてくれた。その気持ちに応えたい。ちゃんと私はてっちゃんと向き合うよ。例えてっちゃんにもう一度振られるとしても。私、もう一度告白してみるよ。少し震える手がこれほどかというほど愛おしく感じた


小さな勇気と小さな一歩

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