過去
沢村が変化球を覚えた。そのことに瑠鳴はまた喜んだ。こいつ、ちょっと沢村贔屓だな。なんて思ったけど言わない。怒りそうだったからな。沢村の先発が決まり、クリス先輩にもそのことを言いに行くとクリス先輩も嬉しそうに笑っていた。瑠鳴といい、沢村はほんと先輩とかに好かれるタイプだな。そういえば瑠鳴は元気にしてるか。と聞かれ驚いた。会ってないんですか?と聞くとここ数日あっていない。と言われる。練習中姿を見ることがあれどうまいこと先輩たちを避けて通っているらしい。およそなにか無理をしている自覚があり、それがバレるのを恐れているんだろうと教えてくれた。そういやあいつ最近授業全部寝てるもんな。寝不足になるまで何やってんだよ。教室に戻ると瑠鳴はいつものように本を読んでいた。瑠鳴。と声をかけると御幸か。といってまたすぐに視線を本に戻す。それが気に入らなくて、わざと怒るようなちょっかいを出そうとすると花咲さん。とクラスの女子が久々に瑠鳴に声をかけた。瑠鳴もそれには驚いたらしく目を見開いている。なに?と動揺を隠しながら聞くと呼ばれてるよ。といって廊下を指さした。そこに立っているのは女子生徒。たぶん先輩だ。その姿を見るやいなや、瑠鳴は本をもって立ち上がりツカツカと足音を立てて教室の出入り口まで行く。そしてそのまま教室を出ていった。慌てて追いかけて声をかけてもついてくるなの一点張り。さきほどの先輩たちも追いかけてきて瑠鳴。と名前を呼ぶと瑠鳴は振り返って彼女たちを睨みつけた。馴れ馴れしく呼ばないで。二度と私の前に姿を現さないで。いつもより数段低い声でそう言うとまた歩き出す。おい。と慌てて声をかけても今度は振り向くこともなかった。そこにたまたま現れた純さんがどうした御幸こんなところで?と聞いてくる。俺があー。と言葉に迷っていると俺の後ろにいる女の先輩と立ち去っていく瑠鳴の姿を見て納得したのか大きくため息をついた。なぁ、お前らさ。どの面下げてあいつに会いに行ったわけ。純さんの声がいつもより低く。怒っているのがよくわかる。最近あいつがまた昔みたいになってきて話しかけやすくなって。もう自分たちのしたことも許してくれるんじゃとか思ったのかよ。女の先輩たちは俯いて少し目を潤ませた。お前らはただ単に自分が楽になりたいだけだろ。だったらずっと、その重荷背負って生きろよ。そういうと純さんは行くぞ。そいって俺を屋上まで連れてきた。
さっきの先輩、誰っすか。あいつらはテニス部。まぁ、夏始まってすぐに引退してっけど。瑠鳴の元仲間。そういえばたしかに瑠鳴は元はテニス部だったっけ。すっかり忘れてたけど。今じゃ俺たちの仲間だから。
1年の時、瑠鳴はテニス部に入った。野球部には入らなかった。自分に出来ることはないっていって。でもよく自分の練習がないときは見に来ていた。もちろんテニスも真剣にやってた。毎日哲と一緒にすぶりして走り込みだってしてた。だから大会でもよく優勝してた。シングルとダブルス両方で出て、大会総なめ。青道は女子テニス部も有名になりそうだった。部活のやつらも瑠鳴には信頼を寄せよく頼っていた。勉強はあんまりだったけどテニスに関してはほんとにずば抜けてたからな。瑠鳴とペアを組みたいってやつは多かった。そりゃあいつといれば優勝確実だったしな。瑠鳴はそんな相手の下心に気づいていながら気づかないふりをした。友達だから。いつもそう言っていた。大会には人数制限のある大会もある。もちろん瑠鳴はその制限内に当たり前にいた。瑠鳴に勝てる奴はいなかった。そりゃ生まれ持った実力もあるが、それだけの努力をしてるし、俺からしたら当たり前だと思った。けど、それでもどうしても嫉妬ってのはある。もともと野球部と仲がいいってだけで恨みは買いやすい。よくいろいろ仕掛けられていたのを俺たちも知ってる。それでも瑠鳴は大丈夫としか言わなくて。俺たちを頼ることはなかった。大会の日は、自分の大会がかぶってなかったら絶対に応援に来た。応援席で笑ってるあいつを見るのが俺らは嬉しかった。2年になって、瑠鳴はますます注目された。それなりに取材だってされてた。けどそれを鼻にかけることもなく、ただひたすら練習をしていた。ひたすら強くなろうとしてた。それは全部、哲のためだった。バッティングセンスはあの頃瑠鳴のほうが上で、瑠鳴が教えるような立場だったから。哲が初めて試合に出た日、あいつは号泣して喜んだ。ほんとに好きなんだなって俺たちも思ったよ。なんで哲に付き合わないんだって聞けば今は野球に専念したいから。そう瑠鳴にも言ったなんて言われたときは哲と喧嘩した。でも瑠鳴が仲裁に入り、大丈夫だっていうからそれ以上は言えなかった。また夏の大会が来て、俺たちも忙しくなる。合宿とかもあって、気がついたら瑠鳴の姿がないってことに夏が終わってから気づいた。その後哲も俺たちも知った。瑠鳴は練習試合の時の事故で足をやられ、入院してるって。その事故は故意に起きたもので、それに気づいた瑠鳴が被害に遭いそうにだった相手選手を庇い、怪我をした。怪我をさせたのは青道先輩で、強制退部。テニス部には大会出場停止という判決が下される。おおごとにならずに済んだのは瑠鳴がかばったという事実で、相手も強く言えなかったからだ。瑠鳴はそれでもまだやり直せるって信じてた。その年の夏は無理でも来年は出れる。だから反省してもう一度頑張ろう。まだ入院していなきゃいけないのに無理して車椅子に乗って学校に来て、部室に行ったときそう言おうとした。けど言えなかった。部室の中から聞こえてきたのは自分への陰口。あいつが邪魔したから。いつも大会独り占めにして。邪魔者だ。あいつのせいで先輩たちはあんなことをしたんだ。大会出場停止も、全部全部あいつのせいだ。怪我だっていいきみよ。これで精々する。いつもいつもヘラヘラしながら、当たり前のように大会で賞とって。先輩たてるとかないわけ?結城くんと一緒に帰るためのお遊びのくせに。お遊びで。そんな言葉を聞いて瑠鳴は信じてたものが崩れていく様な気持ちだっただろうな。それから瑠鳴は変わった。俺たちが気づいたのはそのもっと後。瑠鳴は変わってからだった。
あんなくだらないお遊び、いい加減飽き飽きしてたからちょうどよかったと思ってやめたのよ。それが俺たちが事故のことを知って初めて瑠鳴の口から聞いた言葉だった
その言葉が嘘だってわかってるのに、その時は何も言えなかった。何を言ったら正解なのかわからなかったんだ

絶望とかくだらない

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