相手
鵜久森の試合に勝つと瑠鳴はやっぱり喜んだ。嬉しそうにハイタッチを求める姿が可愛かった。試合の報告を先輩たちにしに行く時、瑠鳴も無理やり倉持が連れてくる。その姿を見て純さんがケラケラ笑い、瑠鳴に思いっきり股間を蹴り上げられた。ああ、そういえば去年の夏はこんなことがあった。もう一つ上の学年もいて、瑠鳴も学年が違ったっけ。それがこうなるなんてあの時誰が予想しただろうか。そして用事があるからとそのまま去っていく。去り際に哲さんに「今夜話に行く」と言われると瑠鳴は哲さんのことを睨みつけてその場から去っていった。きっとわざわざこの場であんなことを言ったからだろう。瑠鳴はきっと俺たちが知ってるとは思っていない。あいつが、この学校を去ることを。だからそれを悟られるような事を言って欲しくないのだ。
昼休み。哲さんに時間をもらい、少し部活の話を聞いてもらった。うまくいかないキャプテンという立場。その話をしたおかげで信じられない事実を知った。哲さんがまさか一度はキャプテンを辞退しようとしていたなんて思ってもいなかった。
「瑠鳴には何か言われたか」
「まぁ、色々と。俺を含め、2年の悪いところを」
「キャプテンに向いていないなどは言われなかったのか?」
「言われませんでしたよ、それは」
だからどうしたっという顔をすると哲さんはニッと笑う。じゃぁ、それで答えが出ているだろう。そう言って俺をまっすぐ見つめる。瑠鳴は素直なやつだ。それに観察力に長けてる。その瑠鳴がキャプテンをやめろと言わないということは、続けたほうがいいと思ったんだろ。それだけお前のことを信頼しているんだ。お前にはまだチャンスがある。諦めるな。甲子園も、あいつのことも。え・・・。哲さんなに、言ってるんですか。お前は瑠鳴のことが好きなのだろう。そりゃ、確かにそうですけど。でも今の言い方、まるで哲さんが諦めるみたいに・・・。俺がそう言うと哲さんは困った顔をして遠くを見る。
「俺はあいつとの約束を守れなかった。俺が苦しい時いつだってあいつはそばにいてくれたのに俺はあいつが苦しんでることにすら気づけなかった」
そんな俺が、あいつを幸せになんてできるわけがない。あいつは、幸せになるべきなんだ。哲さんはそういってその場を背を向けて去っていく。なんだよそれ。哲さんはホントは瑠鳴のことが好きだってことか。じゃぁ、なんで、なんで一途にずっと好きでいてくれてるあいつにそれを言ってやらないんだよ。約束を守れなかったからって、そんなのあいつが気にするわけ無い。
「哲さん!あいつは、そんなの気にしてません!!あいつのこと好きなら、そう、本人に言ってやってください」
「・・・。おかしいな。お前はあいつのことが好きなのだろ?」
「そうっすけど・・・。でも、あの人が好きなのはあんただ!俺じゃダメだってことくらいわかってるんですよ!だったら、少しでも笑ってて欲しいって思うじゃないですか」
好きだ。あいつが。あの人が好きだ。けど、振り向いてもらえないことくらいわかってる。それでも悪あがきして、あの人が困ってるのわかってて好きだって言い続けた。迷惑だってわかってても止められないんだ。この気持ちを。だからいっそのこと、それならあの人が報われたら、俺だって諦めがつく。なのに哲さんは悪いな。とだけいって去っていった


泣かせないで

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