だろう
帝東との試合に勝った。球場の外で待っていた瑠鳴は俺たちを見ると拳を向けてくる。その拳に俺たちは自分の拳をぶつけた。勝った。その言葉の代わりに。拳がぶつかるたびに嬉しそうに笑う瑠鳴をみて俺も勝った実感がより湧いてきた。ああ、ほんと気持ちいい。勝てからこそのあいつの今の顔。これを絶対に忘れるわけにはいかねぇよ。
学校でもすでに俺らの勝利は広まっていて先輩たちも嬉しそうな顔をしていた。前の席替えで俺の前の席になった瑠鳴はいつものように俺らに気に止めることなく本を読む。最近読んでる本はもっぱら医療やマッサージにつての本ばかり。俺もあれから何度かこいつのマッサージをしてもらったが本当に効果は良かった。手先が器用っていうのはほんとにいいな。不器用な奴がやると大変なことになる。降谷とかな。
何小難しいの柄にもなく読んでんだよ!そういって倉持が瑠鳴から本を取り上げると瑠鳴は呆れた顔をして私あんたみたいに馬鹿じゃないから。といって倉持を少し馬鹿にしたように笑う。このやろう。と倉持が言うと暴力反対。なんて言いながら笑う。瑠鳴は本音を言って以来よく笑うようになった。すこし壁が取り除かれたんだと思う。それは喜ばしい限りだな。なんて思っていると瑠鳴はいきなり俺の鼻をつまむ。驚いてあっけにとられているとイケメンのマヌケ顔ほど面白いものはないわ。といって笑う。あー、もう。なんだよこの人。いちいちなんでこんな可愛いんだよ。俺がそんなことを考えてるとも知らず瑠鳴はまだけらけらと笑っていた。御幸。と誰かに呼ばれ振り返るとそこにはナベがいた。ちょっといいかな。どーしたナベちゃん隣からわざわざ。と倉持も少し驚いていた。たしかにこんなふうに誰かが来るのなんて珍しい。瑠鳴もちらりとナベをみてすぐに目を伏せた。ああ、瑠鳴知らねぇのか。俺がこいつはと紹介しようとすると知ってますけど。と少し怒ったような口調で言われる。へ?とナベも驚いたらしく目を見開く。渡辺くん、でしょ?ちょっと興味あったから覚えてる。興味?瑠鳴が?その発言に俺と倉持が眉を寄せる。どういう意味家理解ができないからだ。あ、御幸くん。と呼ばれまた視線が変わる。すると瑠鳴は黙って立ち上がる。おい、と声をかけると手をひらひらと振られた。なんだ?と俺らが首をかしげても瑠鳴は戻ってこなかった
その夜、瑠鳴が俺にほい。と俺に他校までの道中の地図を渡してくる。なんだ?と聞くとこれ渡辺くんに渡しといて。と言われる。意味がわからなくて首をかしげるとどうせ御幸だって彼に頼むつもりなんでしょ。と言われやっと意味を理解した。ナベに偵察を頼むってことだ。まさか瑠鳴が興味あるって言ったのって。そう言うと前に一度彼のノート見たことあったから。と教えてくれる。こういう意味だったのか。と内心で安心し、わかった。といって紙を受け取る。その後ナベに渡そうとすると部活を辞めるか悩んでいると知った
練習中たまに麻生が手を抜こうとするたびに瑠鳴は顔をしかめていた。まぁ、あいつああいうやつだしな。瑠鳴はいつも夜まで毎日選手のマッサージやら、練習やらで残っている。試合にどんだけ頑張っても出れないのに。そんなやつからしたらたしかに腹立たしいだろう。俺はああいうやつって線引きするけだけ。
沢村が試合に出たことを瑠鳴は心から喜んだ。きっと瑠鳴も沢村には感謝していたからな。先輩たちの最後の試合、最後はプレッシャーに負けたけど、それでも精一杯投げた。そんな沢村を尊敬していたんだろう。だから嬉しかったんだろうな。それにイップスも克服してインコースまで投げれるようになった。そんな姿を見ると瑠鳴は安心したような顔をする。まるでもう去っても大丈夫だと確認したかのように。俺はそんな瑠鳴を見て背中からギュッと腕を回して抱きしめた。
「好きだ」
本気の言葉。そうわかっていたからか、瑠鳴は泣きそうな顔をしてごめん。と謝った。

鶴も報われない

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