つけて
次の日、彼女は練習に復活していた。ブロック予選のトーナメント表を見るなりすぐに敵チームのビデオをみてすぐに相手投手の投げ方を盗もうとする。ビデオを一通り見ると実践をし始めるところはここにいる誰よりも球児のように見える。復活した瑠鳴の姿を見るとほかの奴らもなぜか安心感が湧いてきてより集中力が増す。なにより、瑠鳴の機嫌が悪くなる時は一段と集中力が増していた。なにせ一つのミスを許されない。そんな緊迫感に置かれるからだ。もちろんそのせいでミスは出るし、瑠鳴は怒鳴るしで大変だけどな。機嫌が悪くなる原因はひとつ。落合コーチが現れる時だ。瑠鳴も監督のことを既に知っているからっていうのもだろうし、なにより相性が悪い。あのコーチは手段を選ばないタイプ。いわば俺と同じ。けど、瑠鳴は違う。みんなで前に進もうとするタイプだ。誰かを踏み台にするくらいなら。そう考えるタイプ。それに瑠鳴はなんだかんだで怖がることも多いが監督のことを人一倍尊敬している。だからそれに輪をかけて嫌っているんだろう
いきなり沢村がなんのネタか知らないがサイドスローもどきを投げ出すとその怒りは最高沸点まで到達し、落合コーチの好感度はマイナス100くらいだ。もう0に戻ることすらないだろう。実戦形式のシートバッティングで投手として立ったとき、速さはやっぱりないがキレのいい変化球でバッターを翻弄する。瑠鳴以上に相手はコントロールがいいやつだ。でもほんと瑠鳴がいて助かった。ノリも調子のいい時はコントロール抜群だけど瑠鳴はいつだって安定したコントロール。それに投手陣にもバッターとして気持ちいいほど打ち込んでくれるから変な油断をさせずに済む。でもノリにはもう少し優しくしろよ。今にも心折れそうだぞあいつ。バッティング練習のときもひとりひとりに丁寧にアドバイスをしてた。まぁ、おおざっぱな発言が多々あって困ってる奴もいたけどな。だけどどうやら瑠鳴も完全に調子を取り戻したみてぇだし、少し安心した
スタメンの発表があると監督から選手たちのエールのような言葉が送られる。まるで別れの言葉のようだった。そして瑠鳴も。監督もすでに知っているのかよく最近は瑠鳴にみんなの前で意見を言わせるようになった。その言葉も同じように別れの言葉に聞こえた。たしかに一度は俺たちは約束を守れず、瑠鳴を甲子園に連れていけなかった。あの舞台を誰よりも夢見た彼女を、連れて行くことができなかった。けど、今度は連れて行く。瑠鳴を必ずあの舞台に連れてって、青道にきて間違ってなかったって思わせる。監督も、瑠鳴も、別れなんてさせねぇよ。絶対。俺たちにも負けられない理由がある
帝東との試合の前、瑠鳴は全員の背中を力いっぱい叩いた。何も言わない。ただいたずらっ子のように笑いそのまま去っていく。まるで消えていく準備をしているようにさえ感じた。これが瑠鳴なりのエールだってのはわかってる。でも最後のお別れのエールなんていらねぇよ。お前を甲子園に連れていくのはほかのどこかの高校じゃない、俺たちだ。試合が始まり、観客席には瑠鳴の姿もあった。俺たちがそっちを見ると瑠鳴は拳をフェンスにぶつける。勝て。言葉のないメッセージ。そのほうが一番わかりやすい。了解。の意味を込めて胸をトントンとたたくと瑠鳴は安心したように微笑んだ。久々にみたその優しい笑顔に思わず言葉を失う。ったく、こんなところでそんな顔見せるなよ。ほんとに負けられねーじゃん。


君の勇者になりたい

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