大事
決勝戦、俺たちは負けた。突然の敗退にチーム全員が言葉を失った。あと少しで、あと少しで勝てたのに・・・。待てよ。俺は、俺たちはあの人を甲子園に連れていくって・・・。フェンスの奥に居る彼女を見ると呆然と立ち尽くしていた。そしてすぐに駆け出してどこかに消えた。そして彼女は帰りのバスにも現れず、一人でどこかへ行ってしまった
寮に戻ってからみんな泣き続けていた。悔しくてたまらなくて、俺は何度も自分時の拳を壁にぶつけた。その晩は全然眠れなかった。まるで夢のような出来事なのに、夢じゃないと起きた瞬間そうまた実感して涙か出てきた。いや、涙を流してる暇なんてない。前に進まなきゃなんねぇんだよ。俺たちは。不動の4番も、頼れるエースもいない。迷ってる暇なんか一秒たりともねぇ。
朝の食堂に行けば、先輩たちは目を合わせただけでまた涙を流す。俺たちだって悔しいけど、ここで涙なんて流せない。先輩たちとは重さが違うんだ。俺たちにはあと1年ある。絶対に先輩たちの分も行かなきゃならない。ビデオを振り返ってみたとき、改めて思った。己の未熟さと、愚かさを痛感するものだった。勝利を焦り、沢村のことを見てやれなかった。あいつは1年なのに、俺たちがフォローしなければならないのに。俺たちは沢村なら、と過剰にプレッシャーをかけてしまったんだ。結果、あいつの体はガチガチになってしまった。ほかにももっともっと振り返ればいろいろ自分のミスなどがわかる。力が足りない。もっと強くならないと、ダメなんだ。その日も結局瑠鳴は学校には来たらしいけど部活に顔を出すことはなかった。俺はその晩、監督にキャプテンを任命された
先輩たちのいないグラウンド。それは初めてだった。ずっと見続けたあの人たちの背中を追いかけることは、もうできない。今度は俺たちが引っ張る側だからだ。監督達を待っていると周りが一瞬ざわついた。なんだとおもってみんなの視線の先に目をやるとそこには瑠鳴の姿があった。すぐに声を掛けようと思ったが、今の自分に何が言える。そう思い言葉を詰まらせる。瑠鳴は黙ったまま端に立ちただまっすぐ前を見つめた。ちらりとその顔を盗み見ればだいぶ引いているとはいえ目はまだ赤くなっていた。きっと必死で冷やしてきたんだろう。でもそれでも泣いたあとが残るほど、彼女もないたんだろう。監督が来て、俺の挨拶が終わり、練習が始まる。初めてのことに気恥ずかしさや少しばかりの緊張。そしてキャプテンという重み。変わっていくということを実感する。練習の休憩時間、短い間だが瑠鳴の姿が見えないことに気づく。瑠鳴は?と倉持に聞くと見てねぇ。と言われる。そういやあいつ今日どこで練習手伝ってたんだ?ゾノ、と声をかけて聞いてみてもゾノも知らない。と堪える。白州に聞くと順々に回ってたけど。と言われた。全然気付かなかった。つか今日ずっとあいつに会うことがなかった。まるで避けられてるみてぇに。そう考えるとますますそんな気になる。俺らは、あいつにあんだけ言ったことを守れなかったんだから。あの人がどんだけ先輩たちを甲子園に連れて行きたかったか、知ってたはずなのに。
「やっぱ、あいつはまだ立ち直れるわけねぇよな」
「だろうな。自分だって進路を決めだななきゃいけないこの大事な時期を先輩たちのためにその時間を潰してまで支えようとしてたんだ」
倉持の言ったことに俺が同意すると倉持はあんま変なことを口走らねぇように注意しとかねぇとあぶねぇかもな。と言われた。たしかにそれもそうだ。なんて思った矢先のことだった沢村が純さんに稲実の決勝進出のことを話した。そこにたまたま瑠鳴が何かしらのようがあったのだろう。ちょうど入ってきたばかりだった。先輩が驚いた顔をして瑠鳴を見ると瑠鳴はニコッと笑って純さんの背中を軽くたたき、中に入って俺の前までくる。これ、監督からの頼まれ物。そういうと瑠鳴は沢村の背中をぽんと叩いてそのまま部屋を出ていく。それから数日、瑠鳴は家の事情という名目で学校にこなかった。そして薬師との練習試合で沢村のイップスが発覚し、それ以来瑠鳴は沢村につきっきりで指導を始めることになる。今までの瑠鳴からは考えられない行動に部員全員が驚いていた。だけど最初は別に何か瑠鳴にもワケがあるんだろうですんだ。けど、ほとんど沢村に構うか、学校を休むか、そんな日が続いていくうちに俺は気づいたんだ。避ける避けないじゃない。あの人は、俺たちにすでに希望を持ってすらいないのだと


現実少女

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