本気
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丹波さんが練習試合で大怪我を負った。その怪我のせいで丹波さんは試合には当分出られない。その事実は選手にも伝わっていた。けど俺には何よりもその日の瑠鳴の取り乱しようが気になって仕方が無かった。あの日、あの試合でボールが当たる直前瑠鳴は咄嗟によけて!と叫んだ。だけどその言葉は一歩遅く、丹波さんの顎に直撃。重傷を負う。誰よりも早くかけよって丹波さんの状態を大きな声を出して確認し始める。冷静な判断にも見えたけど、あの反応の早さは異常だった。丹波さんの怪我の具合がわかるとすぐに投げていた投手を睨みつける。さっきのたま・・・。投げやりになってなでたでしょ。どうせ。とか思って投げてたんでしょ?それであなたはいいかもしれない。けど、今あなたがしたことは、丹波を選手としてダメにしたかもしれない。一歩間違えれば命だって危うい。それがこのスポーツってことあなたはわかってるの?!瑠鳴の言葉を聞いて相手投手もびくりと肩をはね上げてがたがたと震えだす。やめろ。と俺が止めても瑠鳴は止まらない。まだ何かを言おうとすると丹波さんが瑠鳴。と名前を呼ぶ。ゆっくりと彼女が振り返れば大丈夫だ。と強気に笑ってみせた。それを見て彼女は悔しそうに地面を蹴る。彼女はきっと今すぐにでも相手選手を殴りたいんだろう。けど丹波さん自身がそういえば彼女が何かを出来るはずもない。ただ悔しそうに拳を握り締めていた
次の日、彼女は学校を遅刻してきた。遅かったな。と声をかけても無視されそとをぼーっと眺める。また少し前の彼女に逆戻りしたのか。と落胆していると先生が彼女を呼び出し、教室から連れ出す。その日彼女は部活に来なかった。その日監督が丹波さんにエース番号を渡すことを発表した。このことを聞いたら少しでも彼女は変化を見せるだろうか
次の日の朝、出会い頭に丹波さんのことを話すと当たり前じゃない。と即答された。は?と驚いているとそれ以外に誰に務まるって言うの。と冷静に言われた。もっと喜ぶかと思ってた。なんて素直に言うとわかりきっていることを喜ぶよりも今はすることがあるでしょ。丹波が帰ってくるまで負けられないのよ。そのために投手陣を鍛えないと。まさか彼女の口からそんな言葉が出るとは思わず俺は呆気にとられた。そう言うと彼女は勉強するから邪魔しないで。といってカバンの中から分厚い本をいくつも取り出す。それは野球に関するものやら筋肉を鍛えるものやら俺たちのために集められている本なのだと見ればすぐにわかった。なんだ。ちょっとずつ変わってるんのか。そのことにひどく安堵し、俺もいつものように彼女のそばでスコアブックを読んだ。
放課後になると彼女はクリス先輩と一緒に沢村と降谷のメニューをいい、ノリに個別指導をしていた。それが終わるとすぐにレギュラーメンバーのピッティング練習に付き合い、俺たち以上に動き回っていた。先輩たちが未だに少しばかり立ち直れていないのに彼女は前を向いて先を見始めている。やっぱほんとに強いのは男より女なのかもしれねぇな。テスト期間が迫ってきて球児であろうと学生である俺らにも勉強という文字が迫ってくる。俺は日頃からある程度やっているから特に問題はないが一年のバカ二人が問題だ。それに倉持も。そのため瑠鳴が夜、哲さんがバッティング練習で残っている間沢村と倉持の勉強を見ることになった。彼女がけして頭がいいわけではないらしい。だけど野生の本能的な勘がここでも働き大まかなヤマをはれる。先輩たちいわくそのカンの良さは正直腹立たしいほどらしい。倉持も練習のうえに勉強まで詰め込まれて毎日ヒーヒー言いながら必死に頑張っていた。俺はその姿を横目に変わり始めた彼女の事を考える。第一印象は明るくて馬鹿な人。事故の後からは人が変わったように笑わないし、冷たい目をするし、どうしたんだって思った。心配だった。けどだんだんとそれも変わってきてまた彼女は昔のように、いやそれ以上に目を輝かせ始めているような気がする。でも変わらず彼女の目の先にはいつも哲さんがいた。
「やっぱ、俺じゃ無理なのか・・・・」
いつだって彼女を変えるのは哲さん。となりにいられたはそれは変わるかもって思ってたんだけどな・・・。俺は人知れず深い溜息をらした


瞳に息を吹く

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