桜なんて咲いてない。あんなのは漫画の世界だけだ。卒業式に花なんて、咲いているはずないじゃないか。卒業生、退場。その言葉を聞いて順番に私たちは立ち上がる。そのままゆっくりと歩き出して保護者席の間を通って体育館の外に出る。今日で高校生活が終わる。そんな実感など全然わかなかった。だって、私はずっと、あの日に囚われたままだったから。夏の甲子園。行きたかった。いけると思ってた。あのチームなら、絶対いける。そう思ってたのに・・・。ダメだった。あんなに頑張ったのに。みんなで行こう。そう言って全員分のお守りだって作った。神社にも何度も何度もお願いしに行った。なのに無理だった。ただただずっとそのことばっかり考えた。
教室に戻って友達が涙を流しているなら私はポツンとおいて行かれたような気持ちになる。まだ、まだなのに。あと1年あれば絶対。絶対いけるのに。私はまだ信じられなかった。あの日の試合に自分の学校が負けたことが。嘘だって、夢だって、思ってしまっていた。すでにみんな進路だって決まってるのに。いつまでも情けない。こんな姿後輩には見せられないな。なんて思いながらひとり早々にカバンを持って教室を出る。そのまま帰る気にもなれず、ぶらぶら歩くつもりがいつの間にか見慣れた場所に出ていた。懐かしいな。ポツリとつぶやいた。野球のグラウンド。私はその横で毎日毎日マネージャーとして働いていた。3年は一人だけだったから結構きつかったけど、すごく楽しかった。後輩にも同期にもすごい選手がたくさんいて。見ていて本当に楽しかった
なまえさん!後ろから名前を呼ばれ振り返るとそこには1年の倉持くんがいた。息を乱して焦った顔をして。一体どうしたんだろうか。どうしたの?と聞くと彼は乱れた息のまま、いま部室で、先輩たちが・・・!とにかく早く来てください!まさか乱闘でもしたのだろうか。そう思わせる程の焦りようだった。手を引かれるままに走って部室に入った瞬間パンパンとクラッカーの音が鳴り響く。へ?と驚いている私をよそに後輩たちが笑顔で卒業おめでとうございます。という。どういうこと?首をかしげるとまさかの同学年の野球部も混ざっている。なにこれ?未だに状況がつかめず首をかしげればお見送りの会っすよ。と伊佐敷くんが教えてくれる。お見送りって、まさか私を?!本気で驚くと全員がやっぱり驚いたといってけらけらと笑う。そりゃそうじゃないか。たかだかマネージャーなのに。ていうか、それならなんで3年まで後輩側に立ってるのよ。私がそう聞けばいきなり全員がぴしっと並んでキャプテンの号令で私に向かって頭を下げた。3年間、ひたすら俺たちのことを支えてくれて。ありがとうございました。大きな大きな声でそう叫んだ。甲子園、連れていけなくて、ほんとごめんな。ほんと、約束、守れなくてごめん。野球部の3年全員がそのばでいきなりぼろぼろと泣き始める。何言ってるの。仕方のないことじゃない。そう言わなければいけなかったのに私はみんなの涙に釣られてついつい本音がこぼれた。行きたかったよぉ。子供のようにわんわんと声を上げて泣いて仲間に抱きつく。苦楽を共にしてきた。ずっとずっと見てきた。私にとっては一番の仲間。最高のチーム
このチームで甲子園に行けたら、どれほど幸せだろうか。そうずっとずっと考えた。力になれず、すいませんでした。深く頭を下げる後輩の頭をバシバシっと一発ずつ叩く。わかってるよ私だって。別に誰も悪くない。ただ、ただ仕方のないこと。哲也くんが私の前に一人出てきてまた深く頭を下げる。絶対、先輩たちを俺たちが、甲子園に連れていきます。その言葉を聞くとまた号泣して後輩の胸を借りてわんわんと泣き喚いた



前に進む一歩となれ
(もっと、もっと、高校生でいたいなんて思うのは今日限りにしよう)

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -