「ほんと珍しいこともあんだな」
「なにが?」
「お前から飲みに行こうって誘って来ること」
「そう?」
「そうねぇよ」
そうかな?ととぼけながらお酒をまた体に流し込む。空になったコップを見つめて次は度数の高いのを飲もうと決めメニュー表を見る。どれがおすすめ?と聞くとソフトドリンクと言われたので一発殴ってからそこそこ度数が高いカクテルを頼んだ。
「それで、何かがあったのなまえちゃん」
「待って。お酒来てから話す。しゃべってたらのど乾くじゃん」
誰さんが有名人だからあまり人目につくと困るということで個室になってるのがめんどくさい。一々店員さん呼ばないといけないんだから。一人の時はカウンターだし、目の前にすぐバーテンダーがいるのに。誘ったのは自分だったけどちょっと後悔。綺麗なお姉さんにお酒を注文して今か今かと犬のように待っていたら御幸はお前は沢村かよ。といって笑う。誰だよ沢村。そして無事にお酒が届くと御幸のほうに向いてカンパーイと何度目かわからない言葉を言う。呆れた御幸を無視してお酒を喉に通すと独特の苦みと甘いカクテルが癖になりそうだ。隣で御幸もお酒を含んだのを確認してからそろそろ切り出すかと決めて今日の本題を切り出した。
「昨日私失恋したの」
「ぶっふ」
「ちょ、汚い!」
「お前が驚かすからだろ!」
まさか噴き出すとは思っていなくてどんびきした。汚いにもほどがあるって。一応お手拭きを渡すと御幸はそれで口周りを覆って抑えている。多分いまちょっと頭の中を整理してるんだと思う。でも冷静になってる時に話したくないんだよね。御幸には悪いけど。
「結構長いこと友達やってたの。クリスマスぐらいから」
「へー」
「最初は向こうからご飯とか誘ってくれてたんだよ?でも、だんだんと理想と離れたのかな・・・フラれちゃった」
「ちょっといろいろ整理したいんだけど」
「だめだよ。冷静になったら意味ないし」
「さいですか」
「だからさ、慰めてくれない?」
「・・・本気で言ってる?」
「本気だよ」
御幸がいいならだけど。というと御幸は店員さんに声をかけてお会計を済ませる。もう少し飲んでもよかったんだけどな。なんて我儘は今回ばかりは黙っておこう。とりあえず自分のグラスに入っているものを飲み干して薄いカーディガンを羽織る。
「そんな高級ホテル今からとれねぇけど」
「むふ。決まり」
にんまりと笑うと私はするりと御幸の腕に絡みつく。好きだったあの人にはできなかったこと。友達の期間、長すぎたのかな?とか思ってたのと違うのかな?とかいろいろ後悔もしたけどもう戻れないし、諦めた。それでも消えないこの気持ちを忘れるために、今夜私はこの男に抱かれてみようと思う。

ビトウィン・ザ・シーツ

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