例えば私が誰もが見惚れる美女なら。例えば私がニッコリ微笑むだけで癒される癒し系だったら。例えば私が、健康的な食事を作れる人だったら。浮気なんてされなかったのかな。
知らなかったといえば嘘になる。それでも知らないふりをしてた。だって、きっと捨てられるのは私だから。それでもテレビで報道されてしまえば知らないなんて言えないけど。
一也はしばらく連絡もなく、同棲してる家に帰ってくることもなかった。それでも諦めきれない私はただひたすら待ってた。こんな事になってもまだすがりついてしまう。好きで、好きでどうしようもなくて。
報道から1週間がたった夜、初めて帰ってきた一也は私と顔を合わせるとバツが悪そうに目をそらす。捨てられるんだって、すぐに分かった。もう私のこと好きじゃないんでしょ?知ってたよ。ずっと、もうずっと、私に触れなかったもんね。
「もう少しだけ、ここにいてもいいかな。」
「へ?」
「まだ、わたし、受け止め切れてなくて。なるべく早く、出ていって欲しいと分かってるんだけど」
「なまえ」
「ごめん。まだわたし、失恋、受け止めれない」
狡いけど、泣いてしまった。苦しいよ。好きって気持ちが繋がってた筈だったのに、いつから片思いになってたんだろ。どうしてこうなったんだろ。私に触れなくなってからはテレビに映るその人と一緒にいたの?その人に私の聞きたい言葉を言ってたの?いつから私のこと、イヤになったの?嘘だっていいから誤解だって、間違いだって言って欲しかった。でもそれすらも言わないって事は、そういうことでしょ?
「浮気をしてなかったって言ったら嘘になる」
「うん。」
「元々はスポンサーの紹介で断れなくてそうなっただけだったけど、いつの間にか気づかれなきゃこのくらいいいかって勝手に思ってた」
「うん」
「報道された時、とうとうバレたかってそれだけだった」
「だろうね」
「別に別れるって言われてもいいやって思って帰ってきた。なのに、お前がもう少しとか失恋したとかいうから、お前の好きだったとこいっぱい思い出して、勝手だけど出ていかないでほしいって思ってる」
「私、浮気を許せるほど心広くない」
きっぱりと拒絶した。すがりつきたいとは思ってる。でも許せないというのは本音だ。だってもしまたここに居させてもらえても、毎日毎日不安になる。いつか自分が壊れる。それくらいなら時間を掛けてこの気持ちを消した方がいい。
「出ていくなら、出ていけないようにする」
「どうやって」
「婚姻届を出したっていい。子供作ったっていい。」
「怖すぎるんだけど」
「何度だって謝るし一生許してくれなくていいよ」
「許す許さないじゃないよ、もう」
「一生触れられなくたっていいから傍にいて。もう二度としないから」
「勝手すぎると思わない?」
「はっは。俺、どん欲だから」
いきなり手を掴まれてビックリしているとそのまま引き寄せられて抱きしめられた。どうせまたこいつは同じことをする。また裏切られる。わかってる。分かってるのにどうしようもなく好きで、苦しくて涙がこぼれた。
嘘だとわかっていてもそれを飲み込んだ私はきっといつか死んでしまう。
嘘をついたら死んでしまう薬があればいいのに。あったら私は今自分で飲んで、自分は幸せだと嘘をつくのに。

例えば嘘をついたら死んでしまう薬があったとしたならば。
(この人の腕の中で死にたい。)

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