言われなくなった言葉は数多くある。それでも信じて疑わずにいられたのはそばにいられたからだ。もう、待てない。電話で伝えたその言葉に嘘偽りは一つない。でも待てないからと言ってあなた以外を好きになることすらできないんだから滑稽だ。
シーズンは忙しい。聞いてたことだし、理解していたつもりだった。ほんと、つもりだったんだ。会えなくたって同じ気持ちでいてくれるならいい。本気でそう思ってた。だからずっと文句だって言わなかった。
洋一にしてはかなり珍しかった。女の人とのスキャンダル。どうせでっち上げだと決めつけて気に止めなかった。信じていたいから。何も見えないふりをしていたのだ。見ておけばこんなこと言わずに済んだのかもしれない。
照れくさそうに笑う顔が忘れられない。たまたま、見かけた。買い物をしてて、ほんとにたまたま。声をかけようとした。そしたら、隣にはあの女の人がいて、洋一は照れくさそうに笑う。笑ってた。待っても、待っても、どうせ報われない。どうせ報われないなら、待ちたくない。我慢なんてしたくない。言えなかったことだって言ってやりたくなった。
可愛いって褒めて。髪の毛短くしたことに気づいて。私といる時間を大切にして。傍にいたいと願って。好きだって、お願いだから言ってよ。どんどん減ってしまった言葉に迷いや不安ばかり生まれた。待つことが愚かなことにしか思えなくなった。バカだから、言葉にされないとわからない。言葉のなくなった関係を続けれるほどまっすぐ純粋な人間じゃないの。
「すぎだっていっえくれてもさ、いいじゃんがぁ」
「わかったからもう飲むのやめろ!」
「なんだのよもー!うるしゃい純しゃんのばか!」
「落ち着けって。とりあえず水のめ」
優しい兄は悪い酔をしようとする私を必死で止めようとしてくれた。スピッツなんて呼ばれたこともあって声は非常に五月蝿いけど、それでも大事にされてるのがわかる。だから嬉しくていつまでも兄離れができない私は悪い子なのかもしれない。
「純ちゃんだーいすき。ほんとよ。ほんとに、だいすき」
「・・・おう。」
「うふ。照れてる」
「照れてねぇよバカ野郎!」
「純ちゃん・・・、わたし、悪い子なんだ。待ても出来ない、お馬鹿なの。純ちゃんは待てできるワンちゃんなのになんで妹の私はできないのかな」
「誰がワンちゃんだ!!」
「ほえろスピッツ!!」
あはは。と笑うと純ちゃんは大きなため息をついてわかったから寝ろ。といって私をソファーに転がす。やだ、お化粧落としてないのー!と文句をいっても優しく頭を撫でられて気づけば眠っていた。ねぇ、純ちゃん。私はね、待てが嫌いなの。それでも焦らされても焦らされても、頑張って”待て”、してたんだよ。
もう私には君のコトバが聞こえない。よしもまても、わかんないよ。

イナテマ

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