懐かしいものだ。もう、あの頃には戻れないけどここには大事なものを置いていった。ずっと、好きだった男の子。怖くって怖くって仕方がなかったけど、誰よりも真剣に野球と向き合ってた。
グラウンドってこんなに広かったっけ。なんとなく戻ってきた実家。ついつい足が伸びたのは思い出の母校。いればいるほどあの頃が懐かしい。
平日だからいないけど、いつもグラウンドの周りにはOBとかがいて応援にきたり、やじ飛ばしたり、なかなか賑やかだ。放課後、私たちもここでこんなふうにボールずっと追いかけてたな。なんて練習の風景を見ながら思った。
そう言えば今の監督って誰なんだろ。ふと疑問に思ったが手ぶらで挨拶に行くのもなんだ。明日なにか差し入れを持って出直そうと思い、引き返す。明日もどうか晴れますように、と空に願った。
次の日一応自分的イチオシのスポーツドリンクを作る粉を持って母校に向かう。なぜ粉にしたかというと徒歩で行くのに持って行きやすいからだ。3箱あるし、失礼にはならないだろうと信じる。
休憩のタイミングを見計らってこんにちは。と水道のとこに来ていた選手に声をかける。きょとんとした顔をされ、怪しいものじゃないです。OBです。っていうとおーびーさんでしたか!となんだかちょっと平仮名に聞こえる呼ばれ方をした。あまり気にせずとりあえず監督に一言ご挨拶と差し入れを渡したいんだけど、と本来の目的を告げるとそれなら案内しやす!といって手を引かれた。こんなおばさんの手をそんな軽々しく引いていいものか。というか強引すぎる。この子絶対投手だろ。とか考えながらもう引かれるままについていく。
グラウンドに入るとほかの選手の目も集まりなんだなんだとジロジロ見られることに羞恥心を抱く。渡したらさっさと帰ろう。見るのやめよう。恥ずかしすぎる。
あ、ボスー!おーびーさん来やした!大きな声で人を呼び恥ずかしい子だな。と見ているとボスさんがやってくる。あ、やっぱり監督変わっちゃってるんだ。年齢だったし仕方ないけどなんだか残念。初めまして、と頭を下げもう1度脳内で1目みた監督の顔を思い出す。あれ?え?あれれ??
恐る恐る顔をあげて鉄心?って聞けば驚いた顔をした後みょうじか?と聞かれこくこくと頷く。え?うそ。鉄心ほんとに監督になったの??やだ、びっくり。俺の方こそ驚いたぞ。結婚して遠くに言ったと聞いたんだが。あー、いろいろあってその人と離婚して戻ってきたんです。ちょっと言いにくい内容にお互いが次の言葉に困っているとボスとお知り合いなんですか?と案内してくれた男の子に聞かれた。空気読めない子でよかった!ありがとう!
「ボス?とは同級生で、私がマネージャーしてたんだよ」
「ボスの同級生!?え!?ほんとに!?」
「そうそう。まさか自分の同級生が監督になってるなんて、思ってもみなかった。」
プロの話を蹴ったのは聞いてたけど。恩返しがしたいって言ってたのも覚えてるけど、それを有言実行するなんて、やっぱり鉄心はさすがだな。その強さが昔から羨ましかった。私にはない、その強さが。
鉄心の同級生がいると近くで聞いていた選手がそれを広げていき、あっという間に選手立ちに囲まれて質問攻めに合う。学生のころの鉄心という人によほど興味があるのか、それとも尊敬する人の過去に興味があるのか、それとも両方か。若い彼らのパワーとはすごい。あっという間に飲み込まれそうだ。だから少しだけ学生のころの話をする。当時の鉄心のこと、マネージャーをやっていた時の心情。今となっては夢物語のようなキラキラした毎日。わたしの、宝物。
「おーびーさんは、ボスのことが好きだったんスか?」
「うん。高校3年間の青春捧げるくらいには好きだったよ」
茶化されれば昔はムキになって怒ったけど、今はもう簡単に流せる。おお!と興奮がすこしでも彼らの勢いになればいいな。
「ボスは!?ボスはどうだったんですか!?」
「お前達は甲子園に連れていきたいと思う人はいるか?」
「へ?」
「こいつをどうしても連れていきたいと思う気持ちは時に自分の原動力になる。」
俺がそうだったようにな。鉄心の言葉を聞いてみんながシーンと静まり返る。きっとそれぞれが考えてることだろう。今、自分が連れていきたい人のことを。そういえば鉄心のいう連れていきたい人って誰だったんだろ?あの頃鉄心に恋人なんていなかったし、監督のことかな?
「たまたま俺はそう思う奴がマネージャーをやっていたから毎日奮い立つ理由になった。3年間ずっとな。」
「あの頃マネージャーって私以外いなかったよね??」
「ああ。」
「鉄心なんかそれさ、あの、なんていうか」
「俺は過去形ではないがな。」
そろそろ練習再開するぞ!と話を区切られて混乱している私を置いて本当に鉄心は練習を再開する。とりあえず終わるまでまっていろいろ積もる話がしたい。

過去から繋がる

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