雅功は優しいのだ。それは誰かにだけではなく、隔てりなくみんなに優しい。笑顔になることは少なくても、ぶっちょうずらのまま優しさを振る舞う。例えば女の子がなにか重たいものを運んでる時、おい。と声をかけてそれをさっと奪いどこまで持っていけばいいかと聞く。けして顔はイケメンではないけれど、やることは男前。後輩の鳴くんより、そういうとこかっこいい。顔は負けるけど。
だからか、後輩には負けるけどモテなかったわけじゃない。ひっそりと思いを抱いていた人は少なくないはずだ。その事実を知ってるのは3年ぐらい。このことを雅本人は否定している。私からすればじゃあ今現在のお呼び出しはなんだって思うわけ。
プロに行くことが決まってからそれはよりいっそう増えた。仕方がないといえばそうなんだけど、こう、釈然としない。わたしは漫画のヒロインみたいな甲子園に連れてって!みたいな台詞言えないけどそのポジションにいたんだし。もう引退したけど、甲子園準優勝までいったんだし。そんなヒロインみたいな立場にいるのに、ヒロインになんてなれないってわかってる。けども、なんだかそんなふうに応援してたわけじゃなくて物珍しさから近寄ってくる女の子が気に入らないし、それに鼻の下伸ばしてる雅功も気に入らない。そりゃ、誰を好きになるなんて私が口出しできることじゃないけどムカつく。
こんな気持ちの時はいつもやっぱり見なれた場所を見つめるに限ると思って、昼休みにグラウンドの側まできてぼーっと眺めてた。なんだかほんとに実感ないな。もう、引退しただなんて。あのバカたちは上手くやっていけるのかな。だれがあのおバカのこと叱ってあげるんだろ。誰があのおバカの背中を支えてやるんだろ。雅功はもういない。私たちほかの3年もいない。そう、いないんだ。もうあの子達は自分たちが引っ張る立場になるんだ。おかしなものだな。まだまだあんなに幼いのに。きっと秋大の前に派手にコケるだろうな。きっとそれがあの子達を強くすると思うから言わないけど。3年間マネージャーした私の勘だし。
大学生になっても野球部のマネージャーはするつもりない。だって、ここに全部もうもらったから。ここ以外のものはもういらない。ここを最後にしたい。雅功への思いも、ここに置いていきたいし。いつか同総会とかでここに来る機会があった時そういえばあの頃アイツのことが好きだったんだなって思い出せればいいな。
「なーにやってるの、こんな所でさぁ」
「あんたはなんでいつも私の居場所見つけるの。怖い」
「そんなこと言って〜、嬉しいくせに!」
「アハハ、冗談上手くなったね鳴。」
「ちょっと!」
私の返事にぷんすこ頬をふくらませ不満ですという顔をしているのは後輩であり、我らがエースさまだ。可愛い顔はしてるけど中身知ったらタダの生意気な男の子でしかない。何度か本気で殴りたくなったこともあるぐらいの生意気さだ。
「雅さんがさっき女の子に告白されてたのみた?」
「見てないけど呼び出されてるの見た。」
「いいのー?」
「何が?」
「うかうかしてると雅さん取られちゃうよ?」
にやにやとそう言って笑う後輩ににっこり笑顔を向けて思いっきりチョップを頭に落としてあげた。お前は自分の心配だけしとけばいいの。そう言うと俺はちょーよゆうですぅー!と意地を張る。何いってんだか。私たちが抜けてたくさん空いた穴、誰がどうやって埋めていって自分たちを作っていくか。っていう考えにもまだたどり着けてないくせに。
「雅功には甲子園に連れていってもらったからそれでいいの。」
「何逃げてんの?なまえらしくない」
「卒業するとき、雅功の隣で笑ってたいんだよ。気まずさとかない方がいい」
「彼女になればいいじゃん。」
「選ぶのは雅功だよ。私じゃない」
「じゃあ雅さんがOKだしたら付き合うの?」
「そんな夢みたいな話があればそうなるんじゃない?」
ありえないけど。って言葉を付け足したのに何故か鳴はニヤニヤと笑っていてその顔がすごく腹立つからもう1度殴ってやろうか迷ってやめた。大きくため息をついてもうどっか移動しようと立ち上がって振り返ったら思わぬ人がそこにいた。驚き過ぎてうぇ!?って叫んだ。何この可愛くない叫び。人間本気で驚いた時に出る声なんてこんなもんだよ。
「立ち聞きなんて雅さん趣味悪いねぇ」
「お前は知ってただろ。」
「め、鳴!気づいてたのあんた!?」
「ぜーんせん!これっぽちも知らなかったよ?知ってたらさっきの話なんかするわけないでしょー?」
完全にわかっててやったんだ。確信犯だ。このアホエース!!それじゃ、報告待ってるから。なんていって爽快に去っていく鳴にふざけんな!と怒鳴るけどもう既に姿は見えなくなっていた。雅功と向き合うと少し困った顔をしていた。こうなるから嫌だったのに。バカ鳴。
「どこから聞いてたの?」
「言っていいのか?」
「言わないとどこから話していいかわかんないじゃん」
「あのバカに冗談上手くなったって言ってたとこだ」
「最初から聞いてるじゃん」
もう今更嘘デース。冗談デース。なんて言ったって通用しないのはわかってるし、さすがにそこまで往生際悪くない。って言うのは嘘で、こんな所で逃げて幻滅されるのが嫌なだけ。少しはさっぱりした女って思われてるほうがいい。だから、断られるのを覚悟のうえでもう1度ちゃんと好き。と伝えた。
「雅功のことが、好きです。返事は今すぐ遠慮なくはっきりどうぞ。」
優しい人だから、考えてしまうだろう。でもこんな話に同情も優しさもいらないんだ。はっきりいってもらった方がスッキリする。
「お前はたぶん今俺が断ると思ってると思うんだが」
「うん。思ってるよ」
「俺は1年の頃からお前のことが好きだ」
「雅功も冗談上手くなったね。」
「俺はこんなくだらない冗談は言わねえよ」
「・・・・・・えー!?」
「なんだ。お前の中じゃ俺はそんなクズなこと言う男だったのか」
「い、いやそんなことは全くないけど」
「じゃあ信じろ。」
突然のいろんな意味での告白に頭がパンクして理解するのが遅くなる。もうわけがわからない。俺の恋人になってくれって私の混乱をよそにパニック要素をまたもや増やしてくれる雅功に頭を抱えながらお願いしますと大きな声で答えた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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