この日を楽しみにしていたのはいつぶりだろうか。この日に意味を作ってくれたのは俺の友達に値するやつ。特別だと思えるようになったのは、あいつが笑ってくれたから。笑って祝ってくれたからだ。だからこの日はどうしても、お前に祝ってほしかった。
「先約があるのでその日は無理、か」
仕方ないことだ。そんな毎年毎年その日を開けるなんて無理な話だし、もっと前に約束を取り付けてなかった俺が悪い。けど、覚えてなかったのかよ?とか、誰と過ごすんだよって思わないわけじゃない。つかなんだよ。こんな日まで仕事入れなくたっていいじゃんか。取材と関係者の人が開いてくれる俺の誕生祝のパーティーすべてがめんどくさい。何もかも行きたくない。
「そう思ったりするのは仕方ないと思わない?」
「うるせぇだまってカメラ見て決め顔してろ糞メガネ」
「別にちょっとぐらい変な顔したって気にしないって。倉持はどのみち怖い顔なんだし」
「てめぇマジでいっぺんしめんぞ」
一緒に雑誌の写真撮影をしてるときににっこり笑ったり決め顔をしたりしながらしゃべっていると倉持に怒られる。倉持はこういう仕事苦手だからさっさと終わらせたいんだろうけどせっかく俺が話しをしてるんだから聞いてくれてもいいと思う。
「今日のパーティーサボりてぇ」
「てめぇの誕生日祝ってんだろ」
「そんなどうでもいい奴らに祝われても。しかもそれで女寄ってくるの見え見えじゃん」
「地獄に落ちろ」
「あんなの祝ってるんじゃなくて接待しろってやつだろ」
「子供じゃねぇんだからそんなことグダグダ言ってんじゃねぇよ」
「倉持の時にはないのに俺の時にあるのは不公平じゃね?」
「それは嫌味か?」
こういうときはほんとに自分の顔がいいことが嫌になる。それで雑誌の仕事とかも多いし、モデルみたいな真似までしたこともある。俺はそういうことをするよりももっとスコアボードとか過去のビデオを見たりとか野球に関することのほうがしていたい。
夜になってサポーターの人やらチームのひとやら監督やらを含めて盛大に祝われる。倉持の隣をキープして面倒事を一緒に引き受けてもらう。今日限りだからな。ともちろんくぎを刺された。次から次に来る人にさすがにため息を漏らしそうになる。俺って人気者―。はっはっは。
やっと解放されたときには日付は変わって、そのまま直行で家に帰る。タクシーの後部座席で変わる風景を見ながら結局会えなかったな。なんてちょっとだけ期待してた自分に馬鹿と言いたくなった。今回はメールも入ってないし、マジで忘れられてるなこれは。今度会った時に絶対文句言ってやる。そう決めてタクシーの代金を支払いマンションのエレベーターで昇っていき、ドアの前に立って鍵を開ける。もちろん真っ暗な部屋にだれかがいるわけもなく、今夜は一人だ。なんかむなしい。誰か適当に女見つけとけばよかったかな。んでも結局あいつじゃないと空しくなんだろな。リビングに続くドアをそう思いながら開けたとたんパン!と大きな音がして驚いて思わずうわ!と叫ぶ。
パチンというスイッチオンを響かせ明かりがつくとそこにはなぜかなまえがいた。にんまりと笑いびっくりした?と小首をかしげる。びっくりしすぎてなんも言えないわ。え。なんでここにいんの?約束なんかしてたか???
「みーゆき」
「なに?」
「お誕生日、おめでとう」
「は?」
「ふふ。どうせご飯は食べてきたんだろうし、おつまみとお祝いのケーキだけ作っといたから食べよ」
動揺する俺の手を引いてソファーに座らせる。そして小走りでキッチンにいき、ろうそく付きのケーキを持ってきた。目の前で火をつけられて、よく他人の家では聞いた祝いの歌を歌われる。
「火を吹き消すときはね、お願い事を心の中で願ってから消すんだよ」
「なんだそれ?」
「ほらほら、早くお願い事決めて!ふってして!」
せかしてくるなまえにわかったわかったと言ってケーキと向き合った。願い事と言われても、特に思いつかない。シーズンはオフだし、別に特別ほしいものやなりたいものもない。どうするかと眉間にしわを寄せるとまたなまえに早く早くとせかされた。ああ、そうだ。願うならきっとこれがいい。やっと決まった願い事を心の中で唱えてふっと勢いよく火を消す。一人でわー!と声を上げて喜んでいるなまえを見ながらどうかこの願いが叶いますようにと願った。

君が意味を与えてくれた日をまた君と過ごせますように

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