「伊佐敷って、ほんとに女子より夢見がちだよね」
「はぁ?!」
「もっと現実みろっての。女の子だって出すもん出すんだよ。」
「女がそういうこと口にすんじゃねぇ!!」
みょうじは初めて会った時からそんな感じだった。別に俺にだけってわけじゃない。誰にだってそうだ。男より男前。すんげぇかっこいい。俺が少女漫画好きだからあいつより女子っぽいんじゃなくてあいつが男より漢なんだ。身長は俺より少し小さいくらい。髪の毛はきれいなサラサラロング。それでも誰よりもかっこよくみえるのはあいつの中身と外見のせいだろう。
特別秀でたところがあるわけじゃない。まぁ、運動できるし、勉強できるし、嫌味っぽいところもない。辛辣なのは確かだが、人を傷つけようとかそんな悪意は全くない。ほかのどの女子よりも話しやすいし、気さくだし、いいやつだ。
そんなあいつも女子なんだ。見事にこの前失恋したばかりだ。あいつがずっといいなって思ってると言っていたクラスの男が一昨日、隣のクラスの女子に告られて付き合いだした。それを知ったとき、俺はなんて言っていいかわからず、なんとなく帰ってきたばかりの少女漫画を押し付けてこれ泣けるやつだから読んでみろ!なんて言って渡した。キョトンとした顔で驚かれたがすぐにあいつは笑って伊佐敷と同じ涙腺レベルじゃないんだけどなぁ。とため息をついたのだ。その次の日、あいつは俺に漫画を返し、かなり泣けたと泣き腫らして赤くなった目をしながら言ったのだ。
それからしばらくして、夏休みが終わり始業式が始まる。夏が終わった悔しさを消化しきれていなくても時間は進む。学校でそんなダッサイ姿見せるわけにもいかず、いろんな人に惜しかったと言われるたびに胸が締め付けられた。やっとそんなのも終わったころにみょうじは俺のほうを見て頑張ってた。とただ一言だけ言った。
そんな始業式の日、突然雨が降った。天気予報ではいってたとか言われたがすっかり忘れていた俺はそれを防ぐものは何もなく濡れて帰るしかねぇかってあきらめて昇降口でよし!と気合を入れていると肩をポン。と軽くたたかれる。
「みょうじ・・・?」
「お前、野球つづけるつもりなんでしょ?だったら肩なんか冷やすんじゃないって」
これあげるから。といって受け取ったのはかわいらしい折り畳み傘だった。いやでもそれじゃお前が。といおうとすると普通の青い傘をさしてあいつは雨の中を歩き出す。2個もってたってことか。どんだけ準備いいんだよ、お前。イケメンすぎるだろ。マジで少女漫画から出てきた男かよ。なんで俺がかわいい柄のほうなんだよとか突っ込まない。
「ああ、そういやそれ返さなくていいから。」
「いや、ありがたいけど明日には返す」
「いいって。伊佐敷今日誕生日じゃん。それプレゼント。少女マンガ好きなら使えるでしょ。それに、あんただってあの日私のこと助けてくれたし。その傘、男には小さいから風吹いたら濡れちゃうかもね」
んじゃ。そういって小走りで去っていくみょうじの背中を見ながら俺は手元にある傘を見て思わず笑ってしまった。こんなかわいい傘、そうそう使えるかっての。つか、なんだ。あいつ気づいてたのかよ。俺かっこわりー。なんであいつあんなにスマートにできるんだよ。ああ、ほんと、少女漫画のヒーローかよ。ぽろぽろこぼれる涙はあいつに借りた傘で隠した。

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