ナイショ番外編 side光舟

馬鹿そうな人。だまされやすそうで、口うるさい面倒な人間だろう。それが御幸先輩の彼女への第一印象。一目見てもわかる。この人は沢村先輩と同じ喜怒哀楽の激しい馬鹿だろうと。沢村先輩がいい人!やさしい人!なんていうのはよくあることだけど、あの御幸一也が見初めたというのだから少しばかりは興味があった。沢村先輩にあってみたいなんてわざとらしく言って場を設けてもらってその女を見たとき一瞬で馬鹿だと判断した。いい年して沢村先輩にかわいいかわいいと言って餌付けしているからだ。
でもイメージとは違った。あの御幸一也が選ぶ女だからどんな女かと思えばそこら辺にいる女といえばわかるような女。美人でもない、頭がいいわけでもない、野球の知識もない、どうしてこれを選んだかが俺にはさっぱりわからない。特別なところは何もない。料理ができる人間なんてたくさんいる。そんなに料理上手がいいなら料理人を彼女にすればいいだけのこと。プロに入って御幸先輩のうわさなら聞いてた。遊んでるっていう噂。というか事実。俺もみたことあるし、ふざけて誘われたこともある。そんな人が特定の誰かを作るなんて考えられない。
やっぱり、表向きだけだろう。そう思っていたのにその女を見つめる御幸先輩はあの御幸一也とは違っていた。見てるだけでわかる甘ったるい感情。そして独占欲。沢村先輩が触れるのだってあまりよしと思っていないのだろう。普段とは違ってわかりやすい。

「御幸先輩一つ聞いていいですか」
「なんだ」
「なんであの人なんですか?」

彼女が沢村先輩とじゃれてるのを横目で見つつ聞いてみると御幸先輩はお子ちゃまにはわかんねぇ魅力だよ。といって笑う。思いっきり眉間にしわが寄った。こんな人に聞いたのが間違いだったか。けどこの人しかこの答えをもっていない。疑問を持ち続けるのは気持ちが悪いがこの人にこれ以上聞くともっと気分を害すことはわかっているからやめておくことにした。

「光舟くんご飯ちゃんと食べてる?」

ぼーっとしてると突然声をかけられて少し驚いたが頷くとよかった。といって彼女は笑う。わたし一度君にあってみたかったんだ。その言葉を聞いてこの人ほんとにどこでもいる女と同じだ。と再度思いげんなりとする。なんでこんなの選んだんだか。どうでもいいけど面倒事だけは起こさないでほしい。それはどうも。と返すと彼女はクスリと笑い栄純君に聞いた通りだね。ツンツンしてる。それを本人に向かっていうのか。なんて言えるはずもなく黙っていると怒っちゃった?と眉を下げて聞いてくる。なんだ、人がいらついたことを察することはできるんだ。

「ごめんね。馴れ馴れしかったよね。栄純君からたくさん話聞いてたからつい」
「沢村先輩から・・・?」
「うん。すごい後輩がいるんだって教えてもらってね。いろいろかわいい思い出話とか教えてくれて」

その日彼女と話したのはそのくらいだった。そして二度と会うことはないと思っていた。
女っていうのはほんとにめんどくさい。今だって馴れ馴れしく名前を呼んで腕を組んでくるモデルだったかアイドルだったかなんかの女。やんわりとはずすが何度も何度もしつこく絡みついてきていい加減耐えきれなくなりそうだった時だった。光舟くん・・・?聞いたことのある声が聞こえてそちらを見ると御幸先輩の彼女がいた。なんでここに。そう聞く前に俺に絡んでいた女がだれあなた。とにらみを利かす。それで状況を判断したのか彼女はにっこりとほほ笑んで姉です。と言い切った。笑顔で。え。光舟くんお姉さんいたの??ご、ごめんなさい。お姉さんだとは知らなくて。いえいえ。弟とこれから約束があるのですが。ああ、ごめんなさい。またね、光舟くん!そういって去っていく女を横目で見た後ふぅ。と息をついている彼女を見る。

「ほんともてる男は困りますねぇ」
「慣れてるんですかこういうの」
「まぁ、御幸や倉持だってそういうの会ったからね。その人たちにびんたされたことだってあるんだよ」

そんな話を笑いながらするからこっちも毒気が抜かれる。さっきまでのイライラがなぜかその顔を見てると薄まっていく。イライラするのもばからしくなったっていうことだろう。それで、本来の予定はいいんですか。俺がそういうと時間を確認して彼女はやっちゃった!と慌てだす。助けてもらったお礼にタクシーで待ち合わせ場所まで送ると申し出たが年下にはおごられない主義なんです。と返された。年下って、俺らの年俸がどんなものかだいたいわかってるだろ。明らかに一般人よりは多い。そのくらいおごられてればいいのに。

「あ!なまえさんいたいた」
「栄純君!!」

ごめんね。遅くなっちゃって。いいっすよ。また何かあったんですか?って、光舟がなんで一緒に・・・・。ああ!お前横取りする気か!残念だが今日は俺が先約だからな!なんのことですか。俺は今そこでばったり会っただけですよ。そこでばったりでお前が人に声かける奴かよ。それは。私が見たことある人だなっておもって声かけたんだよ!
いきなり会話に割り込んで沢村先輩をうまくその話題から遠ざける。そしてこっそり俺のほうを見ると唇に指を当てて秘密にして。と伝えてきた。別に悪いことしたわけでもあるまいし。そう思うがこの人にはこの人の事情があるのだろう。わかったという意味で頷けばふんわり笑い、口パクでお礼を述べた。あ。この顔か。すとんと落ちる。御幸先輩が落ちた理由も、沢村先輩が慕う理由も。たぶん、この顔だ。

「光舟もみちまったか・・・・」
「なにが?」
「やっぱり、そういうことですか」
「他のやつにはナイショな」

沢村先輩の言葉にいいですよ。と返すと彼女は心底不思議そうに首をかしげた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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