俺、東京に行く。え?青道にスカウトされたんだ。だから青道に野球をしに行く。だから、来年は・・・・ここにはいねぇ。俺がそう言うと幼馴染のそいつは精一杯笑顔を作ってよかったね。頑張れ。そう言って背中を押してくれた。その顔を見ればずきっと胸が痛む。自分で決めたことだ。だけど、コイツにそんな顔をさせたかったわけじゃない。それに、それに俺だってできることなら・・・・
数日後。突然なまえが熱を出した。うんうん唸るなまえに俺は何もできずにただそばで見守っていた。もう学校は自由登校だ。けど真面目ななまえは毎日通っていただろう。こんなふうに寝込むことがなければ。ごめんね洋ちゃん。このこが心配ばかりかけて。いえ、全然だいじょうぶっす。ほんとにいつも洋ちゃんにはお世話になってばかりで。いつも助かってたのよね・・・・。東京の学校に行くって聞いたわ。この子のことは気にせず、せいいっぱい頑張ってきてね。・・・はい。行くまででいいから、そのことなんかいか遊んであげてくれない?ホントは寂しくて仕方ないのよ。なまえってばこれからもずっと洋ちゃんと一緒にいると思い込んでたからね。
それは俺も同じです。なんて言えずに笑ってごまかした。それじゃ、お仕事行ってくるから。と去っていくなまえの母ちゃんにはい。と返事を返しベッドに眠るなまえの顔を見る。まだ少し辛そうだな。ん。と唸りながらなまえの目がうっすらとあく。よう、いちくん?おう。俺が返事を返すとなまえは突然布団の中に潜りだした。どうした?と聞いても返事がない。なまえ。少し強めの口調でいうと少しだけ顔を出してうつしちゃうから帰って。と言われた。なるほど、うつらないようにと考えての行動だったらしい。布団にもぐったのは。それに意味があるかないかは置いといて。
「風邪貰うほどやわじゃねーよ。とにかく、おとなしく寝とけ」
「だめだよ。東京に行くときに熱出してたら大変だよ。体調管理はちゃんとしないと」
「お前だけには言われたくねーよっと」
ぺちっと額をつつくと不満そうな顔で見られる。その顔が何とも言えないくらい可愛くて思わず笑っちまった。昼飯におばちゃんが雑炊作ってくれてるって。あとで一緒に食うぞ。う〜。唸るな。がおう。なんの真似だよそれ。熱のせいか妙に変な事を言うなまえに呆れながらも優しく頭を撫でればいつものように目を細め気持ちよさそうな顔をする。洋一くんの手・・・好き。きもちい。ごつごつしてて、大きくて。男の人みたい。きっと無自覚なんだろうそのセリフは男を煽るのには十分。しかも思春期真っ盛りの男子中学生(もうすぐ高校生)。好きな女にそんなことを言われて冷静でいられるほど出来た人間じゃない。けどこれはほんとになんの他意がないことは長いこの付き合いで十分承知している。ああ、ほんとにいやってほどわかってるよ!毎回毎回騙されてやるもんか!なんて心の中で叫びながらもまたなまえが意識を飛ばしていることに安易してるというのはなんとも情けない。こいつがこれを狙ってやっているような奴ならよかったのにな。天然ってホントに怖い
何をするわけでもなく、ただなまえのそばを離れなかった。もうあまり長い時間一緒にはいられない。今なら、病人だから。なんて言い訳をつかってずっとそばにいることができる。この寝顔もずっとそばで見てられる。手を伸ばせば触れられる距離に居る。これがあと数ヶ月でなくなるなんて未だに信じられない。なぁ、お前は今どんな気持ちなんだ?俺と同じように寂しがってくれてんのか?離れたくないって思ってくれてんのか?俺のせいで悩んだのか。だから熱なんか出しちまったのか。
もうこの先俺はコイツとずっとはいられない。俺が今までしてきたこいつの世話は誰がやるんだ。こいつは誰に頼ればいい。誰がコイツに騙されてる時騙されてると教えてくれる。誰がこけそうなときに抱きとめてやれる。誰がこのすぐ迷子になるやつを、見つけ出してやれる。この先こいつは、大丈夫なのか。心配でしょうがない。
「頼むから、俺がいなくてもちゃんと生きていけよ。んで、幸せになれ」
悔しい。俺じゃない誰かがこいつを笑わせるのも、幸せだと言わせるのも。けど、俺にはできない。俺が捨てたから。そんな俺に出来るのはひとつ。ただ最後まで幼馴染を突き通して、コイツの幸せを願うことだけだ。そっとなまえの前髪をかきあげてそこに優しくキスをする。どうか、こいつが何事もなく、笑って毎日を過ごせますように。
昼の時間になって土鍋でふたり分の雑炊を温めてなまえを揺さぶり起こす。寝ぼけているところに水を差し出し飲むように言えばゆっくりとこくこく飲み干していく。そして飯食えるか?ときくとまだ寝ぼけているのか頷いてから口をあー。と言って開けられる。ってまさか・・・・。これは俺が食べさせるってことなのか?!ドキドキしながらも慎重に米を息を吹きかけさまし、なまえの口元に持っていくとぱくりと食べられる。もぐもぐと口を動かして食べる姿に呆れつつも食欲が回復するだろ。と安堵もする。
「食ったら寝ろよ。んでさっさと直せ」
「ん。ありがとう洋一くん」
あ。となまえはなにか思いついたらしく声を上げて熱でとろんとした顔で俺のことを手招きする。なんだ。とおもって近寄るとわしゃわしゃと突然頭を撫でられて驚いて硬直してるうちに額にふにっとした何かがそっと、触れた。
「どうか、洋一くんの未来が輝かしいものでありますように。とても優しく愉快な仲間に囲まれて毎日楽しく過ごせますように」
そう目を閉じてなまえは祈るとふにゃりと力なく笑いそのまま後ろに倒れた。俺はそんななまえを抱きとめることもできず、あっけにとられてしばらく声も出せずに硬直するのだった。

そっと、触れるだけ
(ついてきてくれ。なんて言えない)

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