*再開してから一年未満のふたり
*ナイショ番外編


その日はめずらしくあいつからメールがきた。いつも自分から送ることなんてそうそうない。何かあったのかと心配になったがメールを読んだ限りそうではないらしい。いつもの、どうしようもない表現のしようのない感情がわ沸いてきたのだろう。そう自己完結するとすぐに返事を返した。
近々空いてる日あるか。そういうさそいだった。まぁメールはもっと丁寧で遠慮気味のものだがようやくすればそういうものだ。空いてるのは唯一週末だけ。だからそう返すとすぐに、じゃあその日にお願いしますと返ってくる。あいつらしい返事に苦笑しつつ了解。とかえす。
数日後彼女という位置にいる女から連絡が来た。よくあるがあまり返事を返すことはない。今回も読むこと無く無視していたらメールのラッシュ。これだから束縛の激しい女は。拒否登録に追加し、次に会うことがあれば別れの言葉を言うか。会うことがあれば、だが。心のなかでそう思いながら携帯を机の上において風呂にはいる。あと少しでなまえとの飯だ。あいつは高い店につれてくといやがるし、奢られたりはしない。甘えることはそうそうない。そんなところが気に入っていっているけど、あまり好ましく思っていない部分だ。俺だけには甘えればいいのに。彼女というものがあいつのように謙虚で可愛らしいものだったらまた俺も対応が違ったのかもしれない。だが現実あいつのような女はそういないのだ。
シャワーの蛇口を捻り、お湯を止める。ふと、なんとなく自分の生まれた日が近いことを思い出した。よくよく考えればなまえと約束したのは確か当日だ。11月17日。間違うことのない俺の誕生日。誕生日だからといって、たいした思い出はない。子供の頃父は忙しい人だったからわざわざわざわざ祝ってもらおうなど考えもしなかった。高校のとき、倉持や沢村やら、サプライズで祝ってくれたが俺はそのときはじめて自分の生まれた日だったのだと気付きいた。ああ、そうだったな。その程度である。せっかくのサプライズもそんな反応では意味がない!と沢村に怒られたのはまだ覚えている。ジーさん秘伝のビンタをくらったからな。
「今思えばあれは理不尽だったな」
ひとそれぞれのものの捉え方は違うのだ。他人にはどうであろうと俺にはただのいつもの1日にすぎない。第一そんなものを祝っていれば毎日お祝い騒ぎになる。それがどうにも違和感にしか俺には思えないのだ。まぁ、それでも周りの言う特別な日とやらを一緒に過ごすなら恋人なんかよりも落ち着く相手と過ごせる方がいい。そういった意味では最適な人間だな。あいつは。
誕生日当日、俺は仕事が終わってから約束通りなまえとの待ち合わせ場所に急ぐ。約束の時間を押してしまっている。こんな冷える日に外で待たせていたら風邪を引かれかねない。連絡はしたがあいつのことだ。入れ違いにならないようにと建物のなかにはいることもないだろう。ああ、くそ。早く動けタクシー。
待ち合わせ場所の駅についてLINEで連絡をとるとすぐちかくにいることがわかり、まわりをキョロキョロしながら探す。柱に凭れかかりキョロキョロしながらまわりを見ている女を見つけホットとりあえず胸を撫で下ろす。パッと目が合うと手を軽くあげ近寄るために歩き出す。なまえも小走り出掛けよりだす。慌てて早く近寄ろうと足に力をいれた瞬間一也くん。と誰かに呼ばれ、抱きつかれる。驚いて一瞬固まり、視線を抱きついてきたものに向ける。そこにいたのは彼女というたち位置にいる女だった。もぉ。連絡したのに返してよぉ。えらく気持ち悪い話し方に鳥肌をたたせながら何でここにお前がいる。ときくと一也くんの誕生日だから祝いたくてぇ。媚を売るような声に嫌気がさす。ああ、せっかく気分がよかったのに。こいつのせいでだいなしだ。なまえに視線を戻すと帰ろうかわたし?と身ぶり手振りていわれ、首を横にふる。祝ってくれんならプレゼントに頼みひとつきいてくれね?いいよ。一也くんのお願いならなんでもきいてあげる!ありがとう。じゃ、今すぐ俺と別れて。恋人関係は解消。二度と俺の前に現れんな。ポカンと固まった女を押し退けてなまえのもとに駆け寄る。悪い、遅くなって。そう謝るとそれはいいんだけどうしろ。こわいことなってるよ。と言われたがそんなことはどうだっていい。そう言いたくてもこんな顔をされれば振り返らないわけにはいかない、が。
「その女誰よ?!まさか浮気?!こんな女と?!」
まさにありえない。と言いたげなセリフに頭が痛くなると思っていればありえない!とヒステリックに叫ばれた。はぁ。とため息をこぼすとなまえはねぇ、どう考えてもため息つくの私じゃない?といって俺を咎める。嫌な思いさせてごめんな。と頭を撫でれば子供扱いするなと怒られた。その反応がほんとかわいいわ。この騒いでる女もそんな反応すれば少しは可愛がれたかもしれねぇのにな。そういや、いまありえないとかいってたよな。
なまえ。少し柔らかめの声で呼んで腰を抱き寄せる。突然のことに目をぱちくりさせているなまえにちゅ。ちゅ。と額や頬にキスの雨を降らせれば顔を真っ赤にして必死に俺を押しのけようと暴れだす。両手で俺の口を塞ぐからいたずらごころが刺激されぺろりとその手を舐めた。ひっ。と本気でびっくりして手を引いて固まり、降参ポーズのようになっている彼女をギュッと抱きしめた。ああ、いじらしい。このまま喰らい尽くしたい。そう思わせる。そんなシーンを見せられて女は硬直してこちらを見ていた。それをいいことに俺はニンマリと笑って最後になまえの額にキスを落とす。
「ありえないとか言ってたけどさ。お前みたいにヒステリックに騒ぎまったりうざったく甘ったるい声出される女と・・・・」
そう言いながらはむ。っとなまえの耳を口でくわえる。そしてべろりと舐めてみせた。なれないその行為になまえは顔戸惑ってを真っ赤にして涙目で俺の腕の中でぷるぷると固まっている。意地悪してごめんな。最後に落ち着かせるように頭を撫でた。ここまで怯えさせるつもりはなかったんだけど。ちょっと目の前の女に腹が立っただけでさ
「こうやってこんなことにも本気で赤面しちまうかわいい女、比べる価値もなくね?」
にやりと口の端を上げて笑うとそれはそれは恐ろしい鬼ノ貌をした女が捨て台詞を叫んで夜の暗闇に消えた。ああ、やっと終わった。ふぅ。と息をつくと腕の中のなまえはまだ硬直している。ああ、ほんとにやりすぎた。こんな純粋な女には刺激が強すぎる。意地悪してごめん。そう素直に謝ってもうしない。といって抱きしめ背中を撫でてやるとふざけるな馬鹿!と泣きながら怒られた。強がりななまえが涙の流れる顔を俺に見せることはなかったけどな
泣いたせいで目を真っ赤に腫らしていたがどうやらなまえは既に予約しているお店があるらしく、そこに案内される。特別許すけど次やったら承知しないからね!そういって最後まできゃんきゃん言っているなまえを眺めながらやってくる飯を口に入れた。お、うま。俺がそう言うと怒っていたはずなのに途端に嬉しそうに笑いでしょでしょ?良かったー。御幸が気に入って。といって心底嬉しそうにほっとした顔で笑う。喜怒哀楽激しすぎ。思わずぶは。と笑ってしまった
「そういえば、さっきの彼女さんよかったの?まさか私との約束のせいでドタキャンでもしたの?」
「いや、なまえより後から連絡来た。しかも最近束縛ばっか、気持ち悪く語尾伸ばされて会話もつまんね。最悪じゃね?別れるに決まってんだろ」
「まぁ、所詮女にとって男はアクセサリーだからね。」
「へー。じゃぁなまえちゃんはどんなアクセサリー今までにつけたことあるの?」
「すっごい可愛い女の子!この間きたお客さんすっごい可愛いの!もうなにあの小動物系?!あの人の旦那さんうらやましー」
「お前小動物系好きだよな。つか男じゃないのか」
「すきー。御幸好きじゃないの?小動物系女子!」
「何だそのネーミングセンス。無視かよ俺の言葉。まぁ、悪くはねぇけど・・・・作ってるのばっかりだしな」
それには同意見だ。そういうの嫌いなんだよね。飲みに行ってもね、酔っちゃった。はーと。みたいなこというこいてさ。いやいや、ほんとに酔ってる奴もっとひどいから。そんなこと言えないから。とか思ってた。まぁその話を友達と飲んでる時に話してね。私が酔っちゃった。っていってみたの。そしたら嘘くさいって言われて。ひどくない?!私だって普通に酔うけど?!っていったら感情こもってない。酔った時ほどあんなそんなこと言わずに酔ってないと見せかける。とか言われえてさ。当たってるから何も言い返せないんだけど・・・。確かに強がりだもんな。なまえちゃん。でも御幸ちゃんには甘えようかな。今度のクリスマスにプレゼントでマンション一つ頂戴。今の言い方ならうまくはーとついてそうだったぞ。え?ほんと?今度試そうかな。マンション一つくださいって?お願い事可愛くないね。そういってお互い笑うと突然店の照明が消える。なんだ。と驚いているとどこかでじゅぼっと火のつことが聞こえた。ハッピバースデイツーユー。どこからか聞こえてきたその声が一人、また一人と増えていく。え。なにこれ。驚いていると目の前のなまえも楽しそうに歌ってニヤニヤと笑って俺を見ている。まさか。
「お誕生日おめでとうございまーす!」
「おめでとー!」
店中から聴こえてくるその声。そして目の前からおめでとう!といってなまえにクラッカーを鳴らされた。どこから出したそれ。またカバンから何かをあさりなまえは立ち上がると向かい側に座る俺の頭に何かを載せる。ほれ。といって鏡を見せられれば自分の頭の上に乗っているのがなにかわかった。可愛らしいケーキの形をして赤いフェルトでHappyBirthと書かれている。誕生日帽子というやつだ。余りにも似合わないそれを見てなまえはお腹をかかえてヒーヒーと笑い写真をパシャパシャと連射する。いつのまにか机の上に置かれたケーキに立ったロウソクの火を消すように店員に施されてこの歳でやるのに照れくささを感じながらも吹き消してみせると周りが歓喜の声を上げた。知らない人間の誕生日を商売だとしてもここまで騒げるのはやはりすごいと思う。向かい側にいるなまえは嬉しそうな顔をしてお誕生日おめでと。といってニンマリと笑う。ああ、ほんとしてやられたよ。
「なんでお前俺の誕生日知ってたの?」
「この間ご飯行った時にそういえばあいつの誕生日が近い!くそう!思い出しても履か立つ!って話してくれた可愛い子がいてね」
「そいつ絶対かわいくねーよ」
「まぁ、いろいろツッコミどころはあったけどさ。わたしも御幸の意見には賛成だったのよ。そのイベントをどう取るかは人それぞれだっけ?事実キリスト教徒からすればイエスさまの命日でしかないわけだ。」
「確かにな」
だけど私は誕生日をね。よっしゃ今年も乗り切ったぞ自分!おつかれさん!と思ってるわけなんだよ。は?いやいや、意味わかんねーよ。年末のおっさんかお前は。全国の年末のおじさんに謝ってくれるかな。そのバカにした言い方。いやいや、普通に考えてみろよ。年末とえばクリスマスだぞ?ほら、恋人とのクリスマスとか言うじゃん?そういう可愛い発想ないの?ない。そもそもイベントを恋人と過ごしたくなんてない。別れたあとそのイベントごとにその人思い出すじゃん。そんなの俺はいちいち覚えてねーわ。数をこなしてる人は言うことが違いますね。って、そんなことはどうでもよくて。世の中には次の年のカウントをできない人もいるわけだよ。病気とか事故とか、カウントしたくてもできない人がいるんだよ。本人やその関わっている周りの人も含めてね。そんななか自分は何でもないかのようにカウントさせてもらってるわけだよ。誰かの願った明日を、生きているわけじゃんか。そんな日々を365回踏み越えてきたその人の頑張りを私は褒めてあげようと思うんですよ。どんな意地悪で性格が悪くてエロ魔神様な人だとしても、ね。あれ?さっきの根に持ってる?えー?持ってない方が驚きなんだけど。それにさ、男には分かんないかもしれないけど。お母さんは激痛と戦いながら産んでくれたんだよ?どんな親だったとしてもそれだけには感謝しなくちゃ。そういった感謝の気持ちも込めて、お祝い。お前がそんなこと言うなんて珍しーな。うーん、ここらへんは他人に使う建前かな。は?
「ただこうやってバカみたいに騒げる日に騒がないのは損って話。人生楽しいのが一番なのよ?だったら楽しく騒げるそんな日を無下にしちゃダメだよ。人生楽しく、笑顔が一番!」
それにそのおかげでこうやって私は御幸に出会うこともできた。生きてるから出来たことだよ。そのことにも感謝しないよ。だからそういう意味も込めてお祝いするのよ。と。まぁなにはともあれとりあえず。そういうとなまえはくしゃりと俺の頭を優しく撫でてもう一度優しく誕生日おめでとう。といって嬉しそうな顔をして微笑んだ。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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