くーらーもーち。起きないと、チュウ。しちゃうぞ。これは夢だ。こんな幻聴は夢だ。そう思ったのになぜか現実味のある声で、恐る恐る目を開ける。すると目の前まで迫っているマネの先輩の顔が目に入る。思わずうわあああ。と大きな声を上げて叫んだ
「もう。あんあおふざけで怒ることないじゃない」
「おふざけにも程があるんすよ!」
朝一俺の部屋に侵入して起こしてきたのは3年の野球部女子マネのなまえさんだった。彼女はいたずら好きで、よくいろんな人にいろいろ仕掛けていた。その被害はおもに反応のいい相手に行われる。だから亮さんや哲さん、御幸などはその対象から外れていた。俺は最初のうちはあまりされなかったのだが一度ミスを犯して以来彼女の対象になっていた。一度のミスがこんなにも大きいものだってことがわかったのは本当に先輩のおかげだ。おかげで野球も一つ一つを真剣になれた。だけど今回のことは何を学べって言うんだ。人の寝てるところに勝手に来て、さんざんからかって・・・・。言っておくがあそこは俺以外もいるし、男部屋だ。何をされたって文句を言えねぇんだぞ。それをあの人はわかってんのかよ!てか先輩たちもなんとかいってくれよ!あ、そういえば倉持。なんですか!イライラして強い口調になっても先輩は怖がることもない。自分で言うのもなんだが結構怯えられて当たり前の顔だと思うだけどな。今日はわたし倉持の部屋に泊まるから。よろしくね。最後にウフ。なんてキモいセリフつけて今この人はなんといった。泊まる?俺の部屋に??意味分かんねぇよ!とついついタメ口をきくと私先輩。といって思いっきりチョップを入れられる。亮さん直伝のチョップは結構いたい。実は私家の鍵忘れちゃってね。でも今日親が帰ってこない日だから家には入れなくてたいへんだ!ってなってるの。それをみんなに相談したらあそこで寝れるぞって倉持の部屋を紹介してくれたわけ。本当に大変なことなのにそう聞こえないのはきっとこの先輩だからだろう。普通の女子がそんな事を言っていたら本気で俺だって心配すんのにな。まったく心配とかする気になれねぇ。つか先輩たちは自分に被害が無いように押し付けただけじゃないか。明日には帰ってくるから。それまで仲良くしてね。この時まではこのことを本気にせず冗談だと思っていた。この先輩のいつもの意地の悪い冗談だとばかり思っていた。きっと練習後に冗談だよ?本気にしたの?かっわいー。なんていってくるんだと思ってたのに・・・・。
「なんでほんとに俺らの部屋に来てんすか?!」
「え?ちゃんと朝説明したじゃない。お泊りさせてもらうって」
「増子さんは?!沢村のバカはなんでこないんすか?!」
「増子は私にベッド譲ってくれて、沢村君はうるさいから引き取るって御幸がいうから渡してきた」
「じゃぁ俺だって違う部屋で寝ますよ!」
「じゃぁ、心置きなくこの部屋にあるもの捜索できるね。男の子だもの。いろいろあるでしょうし」
にこっと笑を向けられれば立ち上がっていた足をゆっくりと折り曲げた。この人ならほんとにやる。俺にはその確信がある。なにせ俺の最初にやられたいたずらはそれに近いものだったからだ。くそ。風呂にも行きたくてもいけねぇし。どうすりゃいいんだよ。あ!そういえば寮のご飯ってどんなの?美味しい?まぁ。うまいっすよ。いいなぁ。早く食べたいなぁ。その言葉を聞いてちらりと時計を見る。ちっとはえーけど食堂なら人だって集まってんだろ。そしたらこの人だって俺以外の対象を見つけるだろう。つか、今日なんで俺ばっか対象になってんだよ。こっちの気も知らねーで。男と女が部屋にふたりっきり。密室なんだぞ。ちっとは警戒しろよ馬鹿。じゃ、食堂行くか。と俺が言うとじゃぁ私が倉持を食堂に連れて行ってあげよう!なんて意味のわからないことで胸を張る。別に自分で行けますけど。というとムッとした顔をされてそれじゃこれでどうだ!とその場にあったタオルで目隠しをされた。しっかりと結ばれて暗くて何一つ見ねぇえ。よし、じゃぁこういうゲームをしよ。私がこっちこっちって手を鳴らすから倉持はその音を聞きながら自分で歩くの。危なくなったらゲーム終了。倉持の負け。今日一日目隠しで過ごすこと。はぁ?!その間に私は色々といたずらをします。まぁ、万が一私が負けた時は倉持のお願い聞けることならなんでもひとつだけ聞いてあげよう!あーんなことや、こーんなことまでOKよ。ぶふっ。思わず反応してしまうと素直だねぇ。なんて言われて顔に熱が集まる。だからそういう冗談は、と言い返そうとすると口に指を当てられて本気だよ。なんて色気のある声で言われて思わず言葉に詰まった。それって、まさか。さて、それじゃそろそろ行きますか。そう言ってなまえさんは本当に俺を立たせてパンパンと手を鳴らす。結局今のも冗談かよ。ふてくされながら歩くとドンとすぐに壁にぶつかる。あーあ、もう倉持の負けじゃん。つまんないの。本当につまらなさそうな声を出されて俺もすねてしまう。なんだよほんとに。自分勝手な人だな。むすっとして何も言わないでいるとこっちだよ。といって手を引っ張られる。自然に繋がられた手。ドキドキして心臓が壊れそうだ。やべ。てからこの心拍伝わんねぇよな?こんなの恥ずすぎんだろ。俺ださ。ねぇ、倉持。な、んすか。わたしさ、ホントは一番最初に言いたかったんだよ。へ?なにを?でも抜けがけ無しって約束だし。一番重要な役回りもらってるし、約束破るわけにはいかない。けどさ、やっぱり私はわがままな人間だから、ちょっとだけずるするわ。ぐいっと引っ張られて頬にふにゃっとした何かが当たる。私からのプレゼント。へ?なんのことか聞こうと思った時には手を強くひかれ、どこかの部屋に突き飛ばされる。その衝撃でタオルは外れて視界が明るくなった。そっと目を開けようとするとパンパンと大きな音が部屋に鳴り響く。お誕生日おめでとう!おめでとうございます。後輩や同期、先輩たち。野球部のみんながそこにはいた。え・・・?と固まっていると壁に貼り付けられた倉持ハッピーバースデイの文字を見て状況を理解する。これは、俺の誕生日を祝ってくれてるんだ。ポンと背中を押されてその輪の中に入るとそこにいる全員がおれに寄ってきて無駄にわしゃわしゃと俺の頭を撫で回すのがムカつくくらい、泣きたくなった。ホントの仲間っていうのをこんなときに実感するなんて、俺もずいぶんと調子のいいやつだ。飯はご馳走で、誕生日だからって理由で無理やりいつもの倍食わされた。ただでさえいつもの量が多いからだいぶきつい。誕生日ケーキとかいって配られたものはマネたちの手作りだった。それはすんげぇうまかった。そんな楽しい時間はあっという間に過ぎてだんだんと散らばって行き始める。その時ふと思い出す。なまえさんのことを。あの人どこいったんだよ。俺はあの人に祝ってほしいのに・・・。
「おう、倉持。驚いたか?今日はよ」
「純さん。驚いたっすよ。全然気付けなかったっす」
「そりゃそうだろ。なまえがずっとお前の気をわざと引き続けて上手く隠し通したんだからな」
「へ・・・」
「なんだ?お前知らねぇのかよ」
どういうことっすか?と聞くと純さんは最初から丁寧に説明してくれた。俺の誕生日を知ったなまえさんが今回のことを企画してくれたこと。そのためにみんなで準備してくれていたこと。でも俺は案外他人のことを見てるから、バレてしまいそうだ。と御幸がいいだし、じゃぁ私が気を引く。となまえさんが自ら言い出したそうだ。てことは今日の全部気を引くためだったってことか?い、今あの人どこに?!と聞くといねぇってことは帰ったんじゃねぇか?と言われ慌てて飛び出した。今日一日のことを思い出す。朝一にあの人が俺を起こしに来て、飯食う時も練習中も、ずっとずっと視界に入る位置にいて。暇があればちょっかいをかけてきて。なんでもいたずらして、部屋にほんとに来たりして。目隠しされて食堂について。その前にプレゼントっていわれて、何かをされた。あれが俺の思った通りなら・・・・。めちゃくちゃ食ったあとだと正直ダッシュはきつい。でも今しかない。今しかねーんだよ。正門であの人の背中を見つけてなまえさん!と叫ぶ。すると彼女は驚いた顔をして振り返って困ったように笑った。どうしたの?なんてわざとらしいことを言う。そこがやっぱり彼女らしいんだ
「俺、なまえさんにプレゼントもらってません!」
「うわ、図々しい。先輩にプレゼント集るとか」
「頬にキスとか、小学生みたいなプレゼントじゃ満足できません!」
俺がそう叫ぶとなまえさんは苦笑いをしてばれたか。なんてつぶやいた。そしてじゃぁ、仕方ないからひとつだけ欲しいもん高校生の手に入るようなものならなんでもあげるよ。と言われて絶対ですよ。と言い返す。俺がそんな強気なことを言ったことに驚いたのか、一瞬ほうけていたがすぐに笑ってわかったわかった。なんて言ってお腹をかかえた。
「で。何が欲しいわけ?」
その問いかけを聞いて俺はゆっくりと息を吸う。そして思いっきり大きな声で叫んだ
「なまえさんが欲しいです!」

僕は小学生じゃないから

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